異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-05-10

その日、なかなか終わらない仕事に一区切り付けて、車で会社を出たのは22:00をかなり回った頃だった。23:00と言ってもいいくらいの時間だ。

担当しているシステムに不具合が出て原因を調べていたが、どうにもプログラムやマシンに異常は見つからない。システム全体の設計と運用がそもそも間違っている様に思えるのだが、それを指摘するとユーザ企業と我が社の重役クラスが数人まとめて飛ばされかねない。

いや、その前に飛ばされるのはオレだな。

シベリアとかアラスカに支社あったっけ?

シロクマとアザラシ相手にシステム仕様書を書く自分を想像して、こみ上げてくる笑いが止まらない。

赤信号で止まると、交差点に他の車の姿はなかった。

住宅街へと抜ける裏道の周囲は、田んぼに囲まれ、その向こうには木がこんもりと茂るなだらかな丘が続く。

田んぼには、伸び始めた稲の間に白銀の円盤が映っていた。見上げれば白く輝く光。

何もかもを見通すような冴え冴えとした満月がオレを見下ろしていた。

-アラスカでも月は綺麗なんだろうか?

アホなことを考えながら、透き通るような輝きを放つ月を見上げる。

なんだか、苛立っていたさっきまでの気分が、ふにゃ~ととろけるように感じる。

幻想的にも見える風景が、さっきまでとはまるで別の世界のように見え、オレは陶然とした。

-なんだか眠いな。

心地よい気怠さが訪れる。

(……来たれ。)

-微睡みに誘う声がする。

(……来たれ異邦の者よ。)

-それもいいかも。

(……身を委ねよ客人よ。)

夢か幻か。目の前には神秘的な微笑みを浮かべる光に包まれた女性の姿が見える。

-え?

(我が下へ……)

一瞬覚め掛かった感覚はすぐに抗いがたい眠気に誘わる。

額にひんやりとした手が触れたような、そんな感触を感じた。

落ちていく瞼に女性の謎めいた笑みがかすかに残る。

そして、オレは意識を手放した。