異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-05-20

「この者はセタンタ。昨日拾った渡り神だ。」

スカアハがオレを指す。

目の前にこの館に仕える人々が集まっている。

……ってか、妖精やら巨人やら、人じゃないのが半分以上いたりするわけだが。

「妾の弟子としてこの家に迎える。この世界に来たばかり故判らぬことばかりであろうが、皆で面倒を見てやってくれ。」

「承りました、女神様。」

立派なあご髭の初老の男が、代表して答えた。他の者も頷いたり笑みを返したりしている。

どうやら、突然転がり込んだ闖入者にもかかわらず、オレは別段イヤがられているワケじゃないようだ。

食事の前に奉公人に紹介する、ということで皆が食堂に集まった。

わざわざそのために全員を集めなくても、と思ったが、食事は全員で一緒に取るのがここのやり方だとか。

「えー。ただいま紹介にあずかりました、セタンタです。右も左も判らないような若輩者ですが、皆さんどうかよろしくお引き回しのほどお願いします。」

オレが、殊勝な面持ちで挨拶すると、さっきの髭のじいさんが感心したように二度ほど頷いたが、他の連中はくすくす笑っている。

どうも、サラリーマン生活が身にしみてるね、これは。

「あー、えっと。しばらくはスカアハにいろいろ教えて貰いながら、みなさんの手伝いなんぞやらせて貰うことになります。オレもいろいろ仕事を覚えたいので、最初は足を引っ張ると思いますが、気長に付き合ってやって下さい。よろしく。」

「そんなに堅苦しくすることも無かろう。ゆっくり慣れていけばよい。」

微苦笑のスカアハ

なんか、こういう表情に微妙な母性を感じる。気分は父兄参観の小学生か。

「では、夕餉にいたそう。」

スカアハが合図すると、5つほどのテーブルに別れて、配膳と料理担当以外は席に着いた。

オレは、一番奥のスカアハの卓に座らされた。一緒のテーブルには、さっきの髭の老人と、エルフっぽい妖精族の女性、身の丈2mを遙かに超える巨体の壮年の男、そして鋭い目つきの黒髪の少女が同じ席に着いた。

メニューの方は、黒麦のパンと豆のスープ、マトンとハーブの包み焼き、マスのムニエル。味もちょっと塩気が強いがしっかりしていてうまいし、ボリュームも充分だ。

舌鼓をうちながら同席者の紹介を受ける。

髭の老人は、フィン・マッコールと名乗った。影の城(スカアハの居城=この館)の裁量を任されているそうで、所謂執事というやつだろうか。この島の人間族では最大勢力であるエリン族の元族長で、息子に地位を譲って引退した後ここに来たのだそうだ。

背筋が曲がるでも動きが鈍いわけでもなく、矍鑠とした爺さんである。

スカアハ曰く、昔は遍歴の騎士として大陸に聞こえた英雄なのだそうだ。

「女神様に鍛えていただいたおかげです。不肖の弟子でしたが。」

そう言って爺さんは笑った。

セタンタ殿は、私などよりずっと鍛え甲斐がありそうですな。女神様も楽しみでしょうな。」

そうニヤリとしている。

エルフっぽい女性は、リャナン・シーと名乗った。影の森に住む妖精族の一人で、薬草師としてスカアハに仕えているそうだ。

この人、正直この世の者とも思えない絶世の美女である。スカアハとはタイプが違うが、容姿だけならいい勝負だろう。

「この館は美人が多いねぇ。スカアハは冴え冴えとした月みたいな美人だけど、リャナン・シーは朧月みたいに蠱惑的だね。」

考えたことをそのまま言ったら、フフフとこっちに秋波を送られてしまった。

セタンタ殿は詩人の心をお持ちですね。良ければこちらの詩についてお教えいたします。」

彼女は、本草学の大家であるが、詩人としても有名な人物なのだそうな。

ちなみに、さっきのオレの発言に対して姐さんは、「むやみに女を口説くな」と頭を小突いてくれた。こっちのレディーはちょっと暴力的である。

見上げるほどの巨体の持ち主は、スカゲラクという小人だという。何かの聞き間違いかと思ったが、彼は巨人族の生まれなのに背が伸びず、「小人」と呼ばれているのだそうな。

寡黙な人物で、あまり言葉は交わさなかったが、明日一度彼の工房に顔を出すように言われた。彼は腕のいい鍛冶屋で、高名な鍛冶神バルカンの弟子なのだという。オレにあった練習用の武器を見繕ってくれるそうな。

巨人特有のごつごつとした御面相だが、不思議と穏やかな印象を受ける。落ち着いた瞳にそんな感じがするのかもしれない。

黒髪のぱっと見15歳くらいの少女は、ホーサと名乗った。腰までの黒髪を編み込みにまとめていて、服装も簡素なズボン姿で、活動的なイメージだ。物静かだが、挙措に凛とした張りがある。

彼女は、古くから馬の女神として知られているエポナの娘で、この島では数の少ない馬を増やす手伝いをする代わりにスカアハに武芸と魔術を習っているのだそうな。いわば姉弟子である。

「先輩、よろしく。」

オレの挨拶には微笑が返ってきた。美人度ではスカアハリャナン・シーに2歩ほど譲るが、清楚で凛とした雰囲気は「美少女」と言って間違いない。

馬術に関しては、彼女がオレの師匠になるそうだ。

食事しながら、今日から寝食を共にすることになる人々(半分以上が人じゃないけど)を観察したり話をしたり。

特別騒がしくしたり盛り上がったりするわけではないが、仕事の進み具合を話したりする雰囲気は何となくのどかだ。

女神とその奉公人と言うより、家族というか親族というか。思ったよりアットホームなんで、馴染むのも楽かもしれないと思った。