異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-06-01

フィン・マッコール爺さんは渋い顔。

……そりゃ、身内の恥みたいなもんだしな。

リャナン・シー嬢は憂い顔。

……もう一方の当事者が同族だしなぁ。

女神は困惑しつつイライラを自制……出来てない。

……過去の自分の言動が原因の一端だしな。


スカアハが語ったことをまとめてみる。

事件の遠因は、数十年前に遡る。

大陸の、エリン族の遠い親戚に当たる一族が、大陸での生活を捨てて移住してきた。

彼らはエリン族の祖であるコリン族の名門部族で、オーリン族といった。

オーリン族の一族全員である600人少々が、海を渡ってこの島に移り住み、影の平原の未開拓部分に村を作った。

その手助けをしたのは、スカアハエリン族だった。

主に必要な資材を分けたり、他の人間や非人間諸族に紹介して協力を仰いだり、影の島で暮らしてゆくための基盤作りに大きな力になった。

また、移住してきた彼らも、もはや他に行く宛てもないせいか、この島で生活が成り立つよう努力した。

そのおかげか、3世代ほど経た今では人数も倍以上になり、島の人間族の社会ではそこそこの勢力として認められるようになった。

しかし、その間に起こったいくつかの事件と要因が、もめ事の火種となり、その火を煽っていったのだ。


そもそもの発端は、水利権の問題であった。

オーリン族の住む土地は牧草地に恵まれていたが、あまり良い水場がなく、耕作には適していなかった。

家畜はエリン族から分け与えられた羊と牛があり、生活に必要な水は、隣接する影の森の妖精族の一氏族から泉を借りられるように、スカアハが手配した。

水源の確保がどれだけ生活に重要であるかは、いちいち言うまでもないだろう。

その水源を妖精族と調整して使えるようにしてくれたスカアハは、当然彼らにとって恩義の対象となった。そのせいか、オーリン族スカアハを崇拝することひとかたならぬ様子なのだという。

さて、オーリン族も生活基盤が充実して人数も次第に増えていく。

そうなると、食料と財貨の安定した確保には牧畜だけでは不足であり、麦作も是非行いたい。

彼らは、農耕に不向きな痩せた土地でも育つ麦を探し、作付けを始めた。

最初はうまくいかなかったが、大陸から麦作に詳しい者を呼び寄せて教えを請うなどして、次第に麦の生産もうまくいくようになっていった。

このときも、スカアハエリン族の大族長であったマッコール爺さんは協力を惜しまなかった。それまで穀物生産にあまり積極的でなかったエリン族の良い刺激になると思ったからだ。

結果として、オーリン族はこの島でも有数の麦作を行う一族になった。

しかし、同時に生活に必要な水は増え、妖精族の泉からのくみ出し量はどんどん増える。

妖精族も、オーリン族の使う水量が少ないうちは快く分けていた。

妖精族は元々それほどその泉から水を汲んでいたわけではないので、オーリン族に水を分けても、彼らの喉を潤したりあまり多くない作物植物を育てるには困らなかった。

それが、オーリン族の人数が増え、麦作が増えるに連れて、泉の湧水量の多くがそこに費やされるようになり、この数年は時折妖精族が使いたいときに充分な水がないという事態が時々起こることになった。

そこで昨年、オーリン族に泉の水の使用を制限してくれと妖精族から申し入れがあった。6マイルほど北にある川から水を取って欲しいと言うのだ。

その川の周辺には、バーラム族というエリン族の一部族が住んでいるのだが、以前からオーリン族とは折り合いが悪かった。

また、川から水を持ってくるとしても、水を運ぶ距離がかなり長くなってしまう。

オーリン族は一度はバーラム族に川から水を分けてくれと頼んだが、手ひどく断られてしまった。

数年前バーラム族は、麦作について教えて欲しいとオーリン族に頼み、断られたことを遺恨に思っていた。


オーリン族の族長は、結論から言えば、泉を妖精族から奪い取ることにした。

屈強な兵士を泉に置き、妖精族を追い払うようにしたのだ。

驚いた妖精族は、スカアハに調停してくれるよう頼んできた。

その地の妖精族は決して勢力が弱いわけではなく、その気になればオーリン族くらいいつでも追い出せる。

しかし、約定に基づいてこれまでやってきたのだし、隣人と無用の争いも起こしたくない。

やはりこの知らせに驚いたスカアハマッコールは、オーリン族に使者を立てて問い質した。

その返答が本日返ってきた。

その口上はこうだ。

「我らオーリン族は、女神さまより賜った泉をこれからも守ってまいります。女神さまに従わぬ妖精族など、忠実なしもべたる我らがうち平らげて見せましょう。」


……つまり、ちっとも話が通じていなかったのだった。