異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-08-19

オーリン族一同総出で水害の後始末が進む中、スカアハの仕置きが始まった。

オレの世界では、古い言葉で政治のことを仕置きと言ったが、スカアハの場合いろんな意味でこっちの方が合いそうなのでこう言っておく。


スカアハは、ひとまず二つのことを手早く処理することにした。


まず、例の水を噴き出した穴(オレが掘ってしまったやつだ)が井戸として使えるかどうかを、ジャンと弟子二人に調べさせた。

水量が充分にあることは、スカアハもオレも判っていたが、実際に井戸を作って使い方を指導する人間に確認させたかったわけだ。

数日かけて穴を調べたジャン博士は、相変わらずの厳粛な表情で、井戸として十分使い物になる事を告げた。水量の変化を見てみたが、かなりの量を汲み出しても極端に減る様子はなく、当面必要な水は問題なくまかなえるようだ。

ただ、深さが普通よりもかなりあるので、くみ上げには苦労しそうだという。

「手押し式のポンプを付ければいいんじゃ?」

オレが思わずぽろりとこぼしたら、それを聞きつけたスカアハに説明させられるハメになった。

「弁2つとピストンを使って、水を吸い上げるんだけど……」

と炭を借りて図を書きながら一通り説明すると、ジャン博士のお付きの背の低い方が、同じようなものを見たことがあるという。ラテラシア学院の研究者がポンプを試作したらしく、実際に動くものを見たことがあるそうだ。

「問題は、銅の鋳造技術があるかどうかなんだけど。」

オレがそう言うと、スカアハが自分の館から鍛冶師のスカゲラクを呼んで試しに作らせてみると言う。武器の鍛造をする鍛冶師と、鋳造をする鋳物師では技術的に違うんじゃないかと思うが、やって見なきゃ判らないしな。

ジャン博士の方も、学院と連絡を取って協力を仰ぐということだし。

あと、井戸に関してはヴェッセ氏族から異論が出た。曰く、「ヴェッセ氏族の土地から水が出た以上、この井戸は我々のものだ、と。」

この異論は、スカアハがお得意の恫喝で黙らせた。

「もう一度別の場所から水を出してやっても良いぞえ?今度はもう少し派手に水が出るかも知れぬが。」

オーリン族は一同青くなって発言者を連れて行った。それ以来、村にいる間は彼を見なかった。ヴェッセ家というのは、どうも思慮の足らない家系のようである。


もう一つスカアハが打った手は、妖精族との調停である。

スカアハが来て翌日には、トリスタンを連れて妖精族の泉まで出向いた。フィオナ以下オレ達も、せっかくなので付いていった。

ゆっくり歩いて1時間半ほどなので、3マイルほどだろうか。森を少し入ったところに問題の泉があった。

周囲を木々に囲まれた中に、差し渡し20フィート四方くらいの岩場があり、一段低くなったところに50フィートほどの池があった。岩場の途中から水がちょろちょろと湧き出て、池に注いでいる。

初夏とは言えなかなか強い日差しに炙られたあとなので、水場の周囲に吹く風が涼しくて気持ちいい。

オレたちの姿を見て、木陰から身長5フィート弱くらいの小さな人影が現れた。

腰まで伸びた艶やかに波打つ黒髪と、灰色のチュニックからのびる真っ白な手足。その手には、身長ほどの短弓。人形のように整った白い顔には笑顔が浮かび、黒い瞳が愉しげにスカアハを見ている。

「女神様っ!」

タタタッと駆けだした少女を見て、思わずフィオナが槍を構えようとするが、スカアハはそれを手振りで押さえると、走り寄る少女を抱きかかえた。

「久しいな、アイラ。」

スカアハは我が子を見るような優しげな眼差しだ。アイラと呼ばれた少女(おそらくは妖精族なんだろう)も嬉しげに頬をスカアハの腕に擦りつけていたりする。

むぅ。なんか羨ましいぞ。(何が。)

しばらく会話してた二人だが、スカアハが女王を呼んで欲しいというと、アイラという少女は森の中に引っ込んだ。

「あれが影の森の妖精族?」

「そうだ。妖精族と一口に言っても、色々いる故な。」

たしかに。ゼー達とリャナン・シーさんと今の娘をひとまとめにして妖精族って言うのも随分乱暴な話ではある。

ほんの少しして、周囲の森からアイラと同じような背格好の人影が次々に現れた。あっという間に周り中妖精だらけになる。

彼女らは、次々にスカアハに近寄って親しげに挨拶する。というか、まるで久しぶりに訪ねてきた親戚に群がる田舎の子みたいだ。

その光景にオレたちが圧倒されていると、奥から一人の妖精が姿を現した。さっきまで騒がしく走り回っていた他の妖精たちが、その妖精に道をあける。

「女神様、ようこそいらっしゃいました。」

「タニア。此度はオーリン族のものが迷惑をかけた。」

二人が抱擁を交わす。このタニアが女王らしい。容姿は他の妖精とあまり変わらないが、幾分落ち着いた雰囲気だ。

二人は、親しげに話を進める。

途中、トリスタンが謝罪すると、タニアは鷹揚にその謝罪を容れて微笑んだ。

「無用な戦にならずに済んでようございました。」

にっこり笑いながらも、こういう台詞が出てくる辺り、見た目に騙されちゃいけないのかも知れない。

ともあれこれで手打ちになり、泉はこれからもオーリン族が『節度を持って』使わせてもらえることになった。

にしても。

3時間ばかり泉に滞在したが、その間、オレは妖精族の娘っ子どもに懐かれたというか気に入られたというか、とにかくまとわりつかれていた。

最初愉しい遊びをしようと誘われたのでついていったら、ウィリアム・テルの息子よろしく弓の的にされ掛かった。

流石に洒落にならんので、お手玉とか草笛とかだるまさんが転んだとか、とにかく危険じゃない遊びを教えてやったら大人気だった。

結局、また遊びに来る約束をさせられてしまった。姦しい妹が一杯出来たような気分で、まぁ、悪くはない。


ところで、帰り道ホーサが不機嫌だったが何かあったんだろうか。