異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-09-11

とりあえず挨拶が済んで、スカアハを先頭に母屋に入っていく一同。

暴れるというかじゃれつくケルベロスを肩に担ぎ上げて、オレも後に続く。

「兄ちゃん、肩車しろよ。なあなあ~」

トート爺さんによると、この犬娘は今年数えで11歳だそうだが、体格はもうちょっといいかもしれない。日本人で言ったら中学生くらいはありそうだ。

「おいおい、オレは疲れてるんだぞ?」

といいながら、ワンコの体を持ち上げ直して、肩に担ぐ。

「うーんいい眺め。ほらっ!進め進め!」

肩の上ではしゃいでいるケルベロスは、バランス感覚がいいのか、オレの脇に引っかけた足で巧みに釣り合いを取りながらやたらと動いている。

「あんまり暴れるなよ。落っことすと危ないからな。」

こうやって担いでみると、確かに細身だし声もよく通って甲高い。女の子と言われればそうなんだろうけど、なぁ。


荷ほどきしたあと、風呂に入る。

じつはこの2週間、水浴びはしたが風呂には入っていない。

なにしろ、エリン族にもオーリン族にも、温水の風呂に入る習慣がないのだからしょうがない。彼らは、川や泉で水浴びをしたり、木桶数杯のお湯で行水したりするが、湯桶に大量に湯を沸かして浸かるなんてとんでもない贅沢だと心得ている。

スカアハの館に帰ってきて、一番ほっとしたのは、風呂に入れることだったりする。

この館には、浅めの湯船を備えた石造りの湯殿がある。大陸の習慣にならったものらしく、天井の低い薄暗い部屋に熱した石がいくつも積みあげて置いてあり、好みに応じて湯船に放り込んで湯温を調節するようになっている。石に水をかけると、蒸気が湯殿に一杯になるから、ちょっとした蒸し風呂にもなる。

日本の檜作りの風呂桶とかそういうのもいいが、これはこれで趣があるかも知れない。


風呂から上がって部屋でのんびりしていると、エリン族のおばちゃんがやってきて、ちょっと早めだけれど夕食だと教えてくれた。

なんでも、客がいるのできちんとした宴になるらしい。

服装もちゃんとした物を着るようにあつらえた衣服をもってきてくれた。

ゆったりした感じの綿のチュニックとズボンは空色に染められていて、仕立てもちょっと高級そうだ。紐を編んだベルトも、金具に凝った彫金が施されている。その上から群青色の袖付きの長衣を羽織ると、なんだかそれっぽい感じになる。おばちゃんがしてくれるというので、ついでに髪を整えて髭も剃って貰った。

「いい男ぶりですよ、セタンタ様。」

おばちゃんはそういってクスクス笑ったが、残念ながら部屋に鏡がないので自分じゃ分からない。まぁ、こざっぱりして気分は悪くない。


食堂に行ってみると、もうほとんど人数が揃っていた。

客はオーディンのおっさんとシグルーン嬢以外は皆席に着いていたし、館の住人で姿が見えないのはフィン爺さんとギリアムさんくらいか。この二人は給仕の切り盛りなんかをしているみたいで、しばらくして戻ってきた。

いつもはいくつかの卓に別れて会食していたが、今回は長テーブルを繋げてUの字にしていて、オレは部屋の奥右手側に案内された。向かって奥側の隣がスカアハで、左側がホーサの席だ。

一番上座と思われる奥正面の席には、ヌァザさんとベレヌス君、トート爺さんとイリスさんとケルベロス。あと2席空いている。

ちょっとしてオーディンのおっさんとシグルーン嬢が現れて、宴が始まった。

「では、改めて。」

そういってスカアハが席を立つ。

「新たな渡り神セタンタの披露と、ダヌ神族アサ神族オリンポス神族から弟子をお預かりする祝いに宴を持ちたいと思います。」

いつもより柔らかな口調でスカアハが話す。これだけ大物の客がいても、態度は堂々としたものだ。

「世界を代表する三神族の発展を祈念して。そして若者達の門出を祝して。乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

一斉に皆が答えて、杯を干す。

……ちなみにオレのゴブレットに入っていたのはただのブドウジュースだった。


「ところでさ。」

「なんだ?」

スカアハにちょっと確認。

「弟子って誰が来るんだ。」

シグルーンベレヌスケルベロスの3人だが。」

「へぇ。フィオナも含めると、合計7人か。結構大所帯だな。」

「以前より、弟子を受け入れて欲しいと打診されておったのだが、そなたを弟子にしたのを機に受け入れることにしたのだ。」

そこで、ちょっと声を潜める姉御。

「かの三神族は時に対立することもある故、普段から子供達を互いに養い子として交換しているのだ。交流を深める意味もあるが、人質という面もあるのだ。」

交換留学生と人質交換を兼ねてるわけね。神様も政治とは無縁ではいられんのだな。