異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2004-10-19

「あれは、300年以上も前のことじゃった。」

何でいきなりマンガ日本昔話風の語り口なのか。思わずツッコミを入れそうになるが、語り部モードに突入したオーディンのおっさんには通用しなさそうなのでやめておく。

「ある日、アルビオンの島のとある村に、とても美しい娘がやってきた。その娘は、異国からやってきたのか最初は言葉が通じなかったが、気だてが優しく物知りで、そして暖かい笑顔の持ち主じゃった。村の皆は、すぐに娘とうち解けた。」

予想外な話の出だしに戸惑いながらも、緩急巧みな話術に、みんな引き寄せられていく。

「娘は不思議な力の持ち主じゃった。病に足の萎えたものがいれば元気の出る果実を教え、狩りの獲物が減れば獣の多くいる場所を教え、乳の出の悪い母親がいれば子に牛の乳を搾って与えた。娘はすぐに言葉も覚え、村は娘のおかげですぐに豊かになった。」

「牛の乳ならみんな飲むだろ?」

ケルベロスが声を上げると、オーディンはにやりと笑った。

「昔は山羊の乳は飲んだが、エポナの民とサマリアの民ぐらいしか牛の乳を飲んだりはしなかったのじゃよ。牛になってしまうと思ってな。」

「へぇー。んじゃ、その人が乳搾りを教えたんだ。」

「そういうことになる。」

牛乳の伝播は結構遅かったみたいだな、この世界。

「さて、娘の賢さと美しさはアルビオンのそこかしこで評判になった。娘の美しさを見物しに多くの人がやってきたし、娘の知恵を借りにもっと多くの人がやってきた。皆、娘の優しげな微笑みにうっとりしたし、娘の知恵にはびっくりしたものじゃ。」

「そんな娘の様子を見て、男たちはみんな考えた。この娘を妻にすれば家は栄え、愛らしい子供を一杯産んでくれるだろうと。あの皆の心を虜にする笑顔が自分だけのものになるだろうと。」

興に入ってきたらしいオーディン@語り部モード。そして、ポロロロンと音楽まではいる。いつの間にかベレヌス君が竪琴を爪弾いていた。

「ある貴族の男が娘の求婚者に名乗りを上げた。その男は高貴な生まれで財産もあり顔もなかなか整った美男子じゃった。男は意気揚々と娘の前に跪いて、どれだけ財産を持ち、どれだけ娘を幸せにできるか語った。」

「娘は悲しげにうつむいて、こう答えた。『真心こそが幸せを生むのです。財産が幸せを生むわけではありません。』と。」

おおー、なんかいかにも昔話風な展開になってきたな。

「次に、一途で情熱的な詩人が名乗りを上げた。その詩人は、美声と美貌と詩の才能に恵まれた男だった。詩人は娘の前で情熱的な詩を披露し、甘い愛の言葉をささやいた。」

「娘は悲しげにため息をついて、こう答えた。『行動こそが人の心を打つのです。言葉だけでは私の心は震えません。』と。」

あー、やっぱふられるワケね。

「次に、力自慢の戦士が名乗りを上げた。その戦士は、牛を持ち上げるほどの力を誇り、戦いでは向かうところ敵なしだった。戦士は娘の前で胸を張り、この力であなたの望むものを勝ち取ろうと誓った。」

「やはり娘は悲しげに肩を落として、こう答えた。『力をふるって何を奪うのですか?奪われたものの悲しみはどこへ行くのでしょう。』と。」

うーむ、なかなか手厳しい意見だ。

「三人の求婚者が失敗するのを見て、人々は口々にこういった。『あの娘の心をとらえられるのは神だけだ。』と。」

「きっと、戦士は言うほど強くなかったのでしょう。」

そう言ったのはシグルーン嬢。

「詩人は修行が足りなかったのかもしれません。」

これはホーサ

「財産で釣られてもネー。」

「そうです、物で釣るなんて。やっぱり心がないと……」

ヴェーゼーの声にコクコク肯くレー

女性陣の非難は手厳しいが、オレとしては男どもにちょっと同情してしまう。若い男なんて、精々金か顔か腕力ぐらいしか自慢できないもんだ。自慢できるモノがあるだけましだと思うけどねぇ。

「ところで、さ。全然スカアハ出てこないじゃん。」

「まぁまぁ、坊ちゃん嬢ちゃん。面白いのはこれからじゃよ。」

オーディンは焦らすように指を振った。