異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-05-08

「なかなか、楽しくて良い作文であったな。」

母性に満ちたにこやかな笑みを浮かべているスカアハというのも、結構貴重なシーンかもしれないね。本人曰く子供はいないそうだから、母性というのもアレかもしれんが。

いままで、スカアハくらいになるときっと子供の一人や二人いるんだろうと思っていたので、ちょっと意外というか、何となくホッとしたり。

気になる女性が子持ちだって判る瞬間は、結構複雑なもんだからな。

「にしても。強いヤツと戦いたいとか、美味いものを食べたいってのはともかく。ケルベロスはなんでそんなに子供をいっぱい産むのにこだわるんだ?」

この世界の神様全般に言える傾向ってワケでもなさそうだが。

「んー、えっと。ははう……母ちゃんが子だくさんだからだよ。いつも、『エキドナ様はお子様が多くて素晴らしい』って褒められてるからな。」

エキドナ……たしか蛇の女神とか、トート爺さんが言ってたっけ?」

オレが聞き返すと、ワンコはにっこり笑って頷いた。

「母ちゃんはすっごい美人ですっごい強くてすっごい大食らいだぞ!」

いや、大食らいはあんまり女性の自慢にならないと思うが。

エキドナ様は、古より多くの子を成してこられた方で、『化外の母』とも呼ばれておる。キマイラ、ヒュドラ、ラドンなど有名な子を幾人も成しておられるな。」

「へぇー。そうなんだ。」

スカアハの解説に感心するワンコ。

「いや、へぇーじゃなくて。お前の母親の話だろうが。」

オレがつっこむと、口をとがらせて

「母ちゃんの話は大体知ってるけどさぁ。他の兄弟ってあんまり会ったことないし。」

「そうなのか?」

ケルベロスとオルトロスの双子姉妹は、トート様に預けられておったからな。さらに言えば、エキドナ様は巣立ちを迎えた子にあまり拘泥されぬ方ゆえな。」

うーん。それは『産んだら産みっぱなし』と言うんじゃないでしょうか。

「妹のオルトロスと、スキュラ姉ちゃんには会ったことあるぞ。他にも兄弟がいっぱいいるんだ。」

いや、だから何でそこでふんぞり返って自慢げなんだよケルベロス

「なんか知らんが大変だったんだな。よしよし。厳しい世間の荒波に負けずに、立派な大人になれよ。」

頭を撫でてやっても、キョトンとして意味が通じてないっぽいけどな。

「いずれにせよ、ケルベロスが一族の始祖として生きていく事を望むのならば、学ばねばならぬ事はたくさんある。それに、作文には書いておらなんだようであるが、世界一の美女になるのであろう?」

「うん!……じゃなくて、はい!」

「されば、見目麗しさだけでなく、心の有りよう、そして生き様全てが美しい女にならねばならぬ。及ばずながら妾が力を貸して進ぜる。」

「はいっ!!」

「良い返事だ、ケルベロス。」

そう答える姉さんも、なかなかいい笑顔ですな。こうしてみると姉と妹に見えなくもないですな。実際の年はともかく。


「さて。最後にそなたの作文を読んで貰おうか、セタンタ。」

と、姉御のお声がかかる。

一応心の準備はOK……のつもりだったんだが、よくよく考えてみると、ホントに大丈夫かね、これ読んで。

『伝説の騎士になりたい』だの、『王国を作りたい』だの、『世界一の美女になりたい』だの、夢が広がりんぐで普通ならハナで笑い飛ばすような将来展望が、片っ端から了承されてるわけでして。いや、流石にオレがこの年で『正義の味方になりたい』とかいったら一笑に付されるだろう。たぶん……

「何をしておる。皆待っておるぞ。」

逡巡していると、追い立てるような姉御のお言葉が。そして満座の期待の眼差し。

「あ、ああ。いま読むよ。」

うむ。とりあえずウケぐらいはとれるだろう。

ドキドキしながら書き留めておいた文章を読み始める。