異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-08-06

昼の一時。

朝から随分時間がたって、本格的に空腹感が募る頃に訪れるこの食事の時間は、個人的に一番楽しみな一時である。

……が。

「うーむ。」

椀の中身を一さじ口に含んで、絶句してしまった。

「どうしたの、セタンタ。」

横で、塩の固まりをナイフで削っていたホーサが、オレの顔を覗き込んだ。

「いや、さぁ。なんか、初めて食べるからどうも食べ付けないというか。」

椀から掬って、もうひとくち咥えてモゴモゴやってみる。

何とも言えない微妙な味わいだ。

たぶん、情けない顔をしていたのだろう。

「ブイイは慣れるまで少し食べにくいかもしれないわね。」

くすくすと笑ったホーサは、手元で削っていた塩をひとつまみオレの椀に入れてくれた。さらに、削って自分の椀に投入直前だったおろしチーズも振りかけてくれる。

「食べる部分だけで軽く混ぜてみて。」

言われて椀の中身をゆっくりかき混ぜる。

椀の中に入っているのは、ブイイと呼ばれるお粥である。

たぶん、小麦ではなく大麦やオーツ麦を主体に、黒麦と呼ばれているライ麦もいくらか混じっていると思う。それらを完全に粉に碾かずに、半つぶしにした状態で煮込んである。

オレは、米のお粥は割と好きだし、おじやなんかはむしろ好物と言ってもいい。おじやは味噌味で佃煮とか漬け物とかが添えてあると最高だ。鍋の後の雑炊なんかもたまらない。

しかしながら。このお粥の親戚のような食い物は、かなり難物である。

まず微妙に口触りがゴワゴワする。加えてベチャッとした食感が口に残る。そして、薄味というかほとんど味付けされていないためか、麦独特の匂いというか風味が漂う。特に、微妙な酸味がいただけない。

端的に言うと、この世界に来て初めて感じる『なにこの食い物』的な代物である。

出来ればギブアップしたいところだが、ホーサがせっかく薬味を入れてくれたんだし、何よりもったいないしな。

欺されたと思ってひとくち食べてみる。

「………お。」

塩味とチーズの風味が効いたのか、かなり気になった独特の匂いがそれほど気にならない。

「私もブイイはこちらに来てから初めて食べたから、味を付けないと食べられないの。」

と、恥ずかしそうなホーサ

ちなみに、同じように困った顔をしているヤツが一名。

「姉ちゃん。オイラも入れてちょうだい。」

「ちょっとまってね、ケルベロスちゃん。」

というわけで、ホーサお姉さんに食べ方をご教示いただきました。ちなみに、オレはチーズと合わせるのが一番食べやすくて、ワンコはオリーブソースで味付けするのが一番良いそうである。個人的には、醤油とか刻みネギとかあるとよさげな気がする。

なお、シグルーン

「少々風味が違いますけれど、北アローンでも麦粥は食べますので。」

と、淡々と塩を振って食べていた。

一方で、ベレヌスフィオナはお代わりしていたりする。

アルビオン影の島では、ブイイはパンより食卓に上る事が多いんだ。」

と言うことらしい。

「白パンを食べられるのは貴族以上の者だけだし、黒パンにしても毎日食べられるものは少ない。ブイイや薄焼きの種なしパンの方が主食としてはなじみが深いんだ。」

言外に、文句をいわんでありがたく喰えとの含みを持たせて言うフィオナ嬢。

ちなみにスカアハを見てみると、そもそも椀の大きさがオレ達よりずっと小さかった。

「……そなたらは育ち盛りゆえ、しっかりと食べるがよい。本日は午後も体を使って動くぞ。」

……どうやらこの麦粥、家主のスカアハ自身もあんまり好きではないらしい。