異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-08-19

爺さんとオレが中庭に着くと、他の連中は既に並んで待っていた。

「皆揃ったので始めよう。」

姐御の声には特に苛立ったような様子はないから、時間的にはギリギリセーフだったんだろう。ちなみに、スカアハチュニックとズボンの軽装に着替え、左胸を覆う胸当てと左腕の小手、さらに両手に手袋をしている。艶のある黒髪は編んで頭に高く結い上げている。白いうなじが見えてちょっとドキッとしたり。

オレが座ると、スカアハアルケイアにいくつか弓を用意させた。

「中食前に行うつもりであったが、これよりそなたらの弓の取り扱いを見せて貰う。」

そう言って、まず短めの弓を手に取る。

張られた弓弦の長さは3フィートほど。弓自体の描く円弧はそれほどきつくはない。半月よりは幾分小さい形だろうか。弓の中央には手で握るために革と布が巻かれているほか、弓の端、弦を掛ける場所(弓筈)は糸や骨っぽいもので加工されている。だが、それ以外はかなりシンプルな木製の弓だ。

女性としてはかなり長身のスカアハが弓を構えると、その弓は随分小さく見える。たぶん、オレの頭の中にある『弓』というイメージは日本の弓道で使う『和弓』なので、それと比較して小さく感じるのかもしれない。

「弓は、最も代表的な小型の弓として、ガラタイ弓を使って貰う。」

そういいつつ、スカアハアルケイアから矢を三本受け取った。

左手に弓、右手に矢を二本握ったまま、矢を一本番える。

この番え方や構えも、よく見ると和弓のそれとは随分違う。弓は上側を右手(利き手)側に傾けて持ち、その中心上に矢を載せる。右手と左手を引いていき、矢が標的を指すように左手を伸ばしきると右手は顎の下になる。左手をやや手首側に握り込むようにして弓を持ち、矢は右手の親指で弓弦に、左手の人差し指で弓本体に軽く押さえられている。

フッ

息を吐く音と一緒に弓が一瞬ギシリと軋み、引き絞った弦が指から離れる。

ブン

低い振動音とともに矢は放たれ、微かな風切り音とともに飛翔する。

カッ

ほんの数瞬後、矢は高い音とともに160フィート先の十字杭に突き立った。

見事な腕に歓声を上げそうになったが、オレが目を離している間も姐御はさらに所作を続けていた。

フッ―ブン―カッ

フッ―ブン―カッ

右手に握った残りの矢も、続けざまに番えて放つ。

目にも留まらぬ三連射で放たれた矢は、狙い過たず杭の左右腕とその中心に等間隔に突き立った。

「このガラタイ弓は、アローンでは最も普及した弓だ。一位か秦皮の太枝から作ることが多いが、時に骨製や鉄で裏打ちした物などもある。いずれにしろ、素材によって大きさも扱い方もそれほど変わるものではない。立射が主だが、慣れれば膝射や伏射も可能だ。」

そう言って手元の弓を指す。多分、オレ達現代日本人がすごくおおざっぱにショートボウとかセルフボウとか呼んでいるのがこの弓だろう。

「他の弓も説明しながら射て見せよう。」

アルケイアから渡される弓を一度ずつ矢を射て見せながら説明する。

スキタイ弓。別名、騎手の弓。ガラタイ弓よりも幾分短く、直線上の握りから上下の弓筈に延びる部分のそりが強い。短いが引きが強く馬上での取り回しに適しているという。また、東方の弓は弓の左側からではなく右側から矢を装填するのが大きな違いだとか。

ヌビア弓。或いはニジェリ弓とも。形はスキタイ弓に似ているが、幾分上下に長い。弓自体の反りは少なく、全体的にスキタイ弓とガラタイ弓の合いの子のような形をしている。弓筈の部分が渦巻き状に大きくなっているのが特徴か。

それらの短弓とは別に、長弓が一つと十字弓が数種。

片方は影弓と言うそうだが、7フィートを越える長弓である。トネリコの枝から作ったというそれは、紛れもない『イングリッシュ・ロングボウ』そのものだ。アザンクールでフランス騎兵を粉砕した武器だ。

最後には十字弓もいくつか見せてくれた。こちらは台座に弓が置かれている点はほぼ共通で、異なるのは弓の引き方だけだ。手で引いたり、弓の先の金具を足で踏み梃子を使って引いたり、あるいは歯車(ラック&ピニオン)で巻き上げる大型の物も。