異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-08-20

「実を申さば、アローンではヌビアサマリア以東の諸邦に比べ弓はさほど普及しておらぬ。また、弓射の技は武技としてさほど重視されて来なかった。その理由は二つある。」

一通り弓を試射して見せたあと、スカアハは説明を続けた。

アローンは、特にアルプの峰々より北は、そのほとんどが鬱蒼と茂る森だ。故に、歩兵同士の遭遇戦が主体であり、平原での会戦はこれまであまり生起してこなかった。互いを視界に収める頃には、既にして指呼の距離に及んでいるのだ。弓を互いに用意して撃ち合うよりも、槍を投げるか剣を構えて突進した方がはるかに早い。これでは野戦に弓を使おうとする者は少なくなろう。」

息継ぎをしながら続けるスカアハ

「弓を生かして遠距離での攻防が可能なのは、ほとんどの場合籠城戦に限られる。そして、籠城の際に優先される弓の性能は、射程距離や命中率よりも発射速度と矢の備蓄量となる。必然的に、『それなりの弓がそれなりの数揃う』事が優先され、ガラタイ弓のような小型の弓が主流であった。もっとも、ガラタイ弓とて元来は狩猟用の道具であって、必ずしも兵の扱う武器として重視されてきたわけでもない。いわば、猟の道具を戦時にかき集めているようなもの故、さしておかしな事ではない。」

さらに長広舌を振るう姐御。

「また、船同士の戦でも弓は大いに使われるが、これもさほど射程は求められぬ。船に乗れば分かることだが、よほど静穏な海でない限り、遠矢などほとんど当たらぬ。つまるところ、船戦での弓は接舷する直前か、火を掛ける手段にしか使えぬということだ。」

船戦の話はあくまで閑話だが、と話を継いで、姐御はさらに続ける。

「しかし、近年は兵数が次第に増加しつつあるせいもあり、野戦での決戦に弓兵と騎兵が重要な役割を果たしつつある。これから先は、いずれ長弓が野戦の主流になっていくことであろう。それ故、短弓に慣れた後は長弓においても習熟して貰う。実際に、影の島妖精族にはこの長弓を取り入れさせ始めているしな。」

と、つまりは、これからは長弓の世の中だと言いたかったらしい。

「ちなみに、その長弓は『影弓』って名前だっていってたけど、もしかして考案したのはスカアハ?」

どうやらオレの質問はちゃんとツボを突いていたようだ。

「妾が考えたわけではないが、影の森の妖精族に勧めておる。短弓よりも明らかに有利な武器を使わぬ理由は無かろう。」

とのお答え。

「そうだよな。結局は射程距離が長い武器を多く揃えた方が闘いには勝つよな。」

「うむ。良くわかっておるな。」

なんだか随分満足そうなスカアハ

何か理由があると思われるので、弓を使って順番に試演が始まった頃に、アルケイア姉さんを捕まえて聞いてみる。

スカアハ、ヤケに長弓にこだわってたけど。」

「ああ、あれはな。」

事情を聞くと、どうやら以前、どこか余所の神様と論争になったらしい。曰く、射程の長い武器(弓や鉄砲)の重要性を説いたスカアハを、臆病な女の理屈だと一笑に付した人物がいるらしい。

「誰だよ、その勇気のある男は。」

「ああ、マルス様だよ。」

「んーと。オリンポスの戦争の神様……だっけ?」

「そうだ。マルス様は重装歩兵の四方型陣が世界最強だと仰っている。」

そう言いつつも、皮肉めいた笑みを浮かべる姉さん。

「でも実際はそうじゃない?」

「6年前、ロマニアの歩兵軍団がポンメルの重装騎士団にさんざんに打ち破られてな。マルス様は激怒なさってたそうだぞ。」

いい気味だとニヤニヤ笑いを浮かべるアルケイア

なんか、妙な派閥争いがありそうな予感。