異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-09-03

シグルーンは、背丈が足りないんじゃなかったっけ?」

ぽろっと思ったことを口に上らせると、

「――!」

なんだかえらい勢いで睨まれた。ジロリとかそんな甘い眼差しじゃなく、もっと恐ろしいものの片鱗を味わいましたよ。

「あ、あー。その、そろそろシグルーンも弓を習っても良い頃だよなぁ。うんうん。」

慌てて肯定すると、ふん、と鼻息も荒く一瞥されてしまいました。顔まで赤くして。

あれだね。きっとアサ神族ってのは血圧の高い神族に違いない。オーディンのおっさんも異様にテンション高かったしな。

いずれにしろ、アピールが功を奏したのか、

「そうよな。ホーサもなかなか教え上手ではあるし、初歩の手引きをしてもらうがよい。」

スカアハはそう言って許しを出した。ホーサも快く引き受ける。

体格に合わせてやや短めの弓をアルケイア姉さんに選んでもらい、ホーサから手ほどきを受け始めたシグルーンを眺めていると、後ろから声がかかる。

「ところでセタンタ、そなたは弓は引けるのか。」

「え?」

スカアハお姉さんの問いかけに、ちょっと返事に窮する。

「んー、前の世界では弓術って言うか弓の技術がだいたい二種類あったんだけど、どっちもほんのちょっとだけやったことがある。一応はね。」

具体的に言うと、アーチェリーも弓道も、大学のサークル見学で体験入部したことがあるだけだ。両方合わせて数時間ってところだが。

「ふむ。折角だ、そなたもやってみせるが良い。」

「え~?ほとんどやったことがないのと一緒だけど?」

「見よう見まねでも良い。もし手際が悪ければ妾が手直しする故、まずはやってみよ。」

「まぁ、そこまで言うなら折角だし。」

足を軽く引きずりながらアルケイア姉さんに弓をもらいに行く。

「お前は上背も力もあるし、腕も長い。……この辺か。」

と、棚から姐さんが取り出してきたのは、7フィートを優に超える大弓だった。

「いや、姐さん。これはロングボウっつか影弓じゃねーですか。」

手渡された長ものに戸惑って聞き返すと、

「あん?情けない声出すな。」

と肩を叩かれた。

「お前ぐらいの体格だと、弦を引く長さと弓の張りの釣り合いが難しいんだ。張りの弱い短弓だと弓が撓りすぎる。張りが強すぎれば十分に引けないし、強弓は扱いが難しい。」

そう説明しつつ俺に影弓を持たせ、手振りで弦を引くように促す。

トネリコの太枝から作ったというシンプルだが長大な弓は、幾分下側が短めに作ってあるようだ。素材こそ違うが、和弓に似ていなくもない。

矢を番えずに弦を引いてみる。頭上に上げてから左腕を伸ばしつつ右手を頬まで引く。いくらか軽い感じはするが、引き絞った状態でも弓の撓り具合はそれほど極端ではない。

「お前ぐらい腕が長いと、短弓は張りが弱くて折れそうになるか、強すぎて引くのに苦労する。長弓は長くて取り回しこそ悪いが、慣れるまではむしろ調整がしやすい。」

意外にも含蓄のあるお言葉を口にしつつ、アルケイアは俺の引き具合を見てほかの弓と交換した。今度は先ほどより張りが少し強い。

「そんなもんだろ、とりあえず。」

そう言いながら、ホーサ達が使った矢よりも半フィートは長いものを渡された。

「とりあえず、前に飛びさえすれば上出来だ。頑張んな。」

あんまり嬉しくない励まされ方をしつつ、スカアハの方に近づく。オレの準備を待っていたお師匠様は、早くしろと視線で急かした。

……正直、ホーサの方が優しく教えてくれそうで嬉しいんだけどなぁ。