異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-09-24

他の四人がまるで赤子の手を捻るように易々と敗退したのと比べて、ケルベロスはかなり善戦したと言えるだろう。

ケルベロスの動きは至ってシンプルなモノで、スピードを生かしてスカアハの周囲を周り、右手に持った木剣で素早く斬りつける、ただそれだけだ。しかし、常人よりもはるかに速い踏み込みと、時折左手に持ち替えて繰り出される攻撃がトリッキーで、当初スカアハは防戦に専念させられた。

とは言え、ケルベロスの斬撃が10回を超える頃、スカアハは飛びかかってきたケルベロスの攻撃をいなすと、着地の瞬間を狙って蹴りを繰り出した。とっさに避けようとするケルベロスを、回転しながら繰り出した長剣の一撃が捉えた。

当たる直前で手加減したのか、スカアハの剣先がケルベロスの胸当てに当たって、コツンと軽い音を立てる。

だが、ケルベロスはそれでも止まらずにスカアハに向かって再び飛びかかる。

スカアハも、とっさに盾を構え直してケルベロスの攻撃を受け止める。

「ウルォーーーーーンッ!」

ケルベロスは、喉から獣の咆哮をあげてスカアハへと突進する。

例の『戦士病』とやらの状態に突入している。ってか興奮しすぎて理性が飛んだらしい。

「ワンコッ!」

思わず飛び出そうとすると、

「くるなっ」

スカアハの声が返ってくる。

スカアハは、理性を無くしてさらにスピードに乗ったケルベロスの攻撃をスレスレでかわすと、容赦なくその足を払う。さらに、転倒して起きあがろうとするケルベロスの腕を掴んでねじり上げると、腰の上に馬乗りになる。

じたばたと暴れるケルベロスを押さえ込みながら、スカアハアルケイアに向かって呼ばわった。

「そなた、井戸で桶に水を汲んで参れ。」

「あいよ。」

アルケイアが水を持ってくるのを待つ間、スカアハは暴れるケルベロスを巧みに押さえつけていた。一方ケルベロスは、「ウーッ!」だの「フーッ!」だのと唸りつつ、歯をむき出して周囲を威嚇している。まるでエクソシストのリーガン嬢(パズス憑き)である。

アルケイア姉さんが桶一杯の水を持ってくると、スカアハはスッと立ち上がり、跳ね起きようとしたケルベロスの足と手を捌いて仰向けに転がす。すかさず桶を手に持つと、ケルベロスの顔面に水をぶちまけた。

「うひゃぁっっっ!!!」

水を浴びたワンコはマヌケな悲鳴を上げて周りを見回した。

「な、なに?なんでオイラこんなところに?」

そして、くしゅんと小さくクシャミをした。

「お前、またネジが飛んじゃったんだよ。」

「……"ねじ"って何?」

「あー、あのな。また『戦士病』が出たんだよ、お前。」

「そっか。」

と、何だか惚けているケルベロスのびしょ濡れの顔を手ぬぐいで拭いてやる。

「ありがとう。」

ついでに髪もわしゃわしゃと荒っぽく拭いてやる。

「あとは自分で拭けよ。」

「はーい。」

手ぬぐいを頭にかぶせてポンポンと叩くと、ノーテンキで素直な返事が返ってくる。先ほどまでのケダモノっぷりがウソのようだ。

「しかし、毎回これじゃ修行にならんな。」

スカアハに水を向けてみると、姐御は思案顔で腕を組んでいた。

魔術で封じることは出来ようが、恒久的にそれを維持することは出来ぬ。その上、ケルベロスの潜在的な力は感情の高ぶりによって引き出されているように思える。やはり、いずれは己自身で克服せねばなるまいな。」

「とりあえず、当面は何とか押さえ込む方法を考えて、並行してワンコの精神的成長を待つって感じか?」

「そうよな。」

渋い顔で姐御が頷いた。