異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-09-30

オレとスカアハが訳知り顔で相談していると、横から驚きと戸惑いの入り混じった声が。

スカアハ様。今のが『戦士病』ですか?」

声の主はホーサだった。口調から、ケルベロスがカッ飛ぶとこうなるというのは知っていたようだが、実物をその目で見るのは初めての様子。

「『戦士病』の一種ではあるな。」

落ち着いた様子で応えるスカアハ

こちらは、先ほどの落ち着いた対処といい、口ぶりといい、扱い慣れている印象だ。もっとも、スカアハが冷静に対処してないところなどあまり見たことがない。……なんか例外はオレが怒らせた場合ばかりのような気がするが、それはさておき。

「一口に『戦士病』と申しても、その症状は様々故、総てをおしなべて述べるわけにもいかぬが。」

と、前置きをして解説してくれる。

姐御曰く、『戦士病』は一種の特異体質で、激情に歯止めをかけられなくなった時に普段と異なる身体能力を発揮する状態のことを指すそうな。別称『狂戦士』『殺戮症』とも呼ぶ。

多くの場合は、怒りや興奮によって前後の見境無く戦い続ける状態、つまりは『血に酔う』ことを差すらしいが、中にはこの状態になると特に驚異的な肉体能力を発揮するものがいるという。

「名の知れた『狂戦士』には、ケルベロスの父親であるフェンリルや、サングの王であったシギなどがおる。」

フェンリルは元々半獣半神の渡り神で、200年近く前にこの世界に渡ってきた人(?)だそうだ。当人の詳しい話は省くとして、この人は代表的な『戦士病』持ちだという。

フェンリル殿は、血に酔い興奮が高まると、人型から獣へと次第に獣化の度合いを増し、強靱な毛皮と並はずれた膂力を発揮する。鋭い爪でえぐり、鋭い牙で噛みきり、鋭い嗅覚で敵を一人残らず狩り出して息の根を止める。敵に回して生き残れる者などほとんどおるまいな。」

なんつーか、文字通り怪物そのものみたいな人らしい。

「人狼族やコボルド族のように、フェンリル殿の血を引いた者には『戦士病』の者が多い。やはりケルベロスも、その血を色濃く受け継いだが故に、興奮に我を忘れるのであろう。」

オレは姐御の解説を聞きながらも、他の弟子連中がどんな反応を示していたのかを見ていた。

フィオナは、ワンコのプッツンを狩りの時に何度か目にしているせいか、さほど大きな表情を出していないが、時折ワンコに向けるいささか痛ましげな同情の視線が伺える。

その横のベレヌスは、青ざめた顔で一度大きく身震いした。たぶん、驚きに恐れが混じっている状態だろう。まぁ、あの暴れっぷりをみたら無理もないだろう。オレだって最初は引いたし。

ホーサシグルーンは、むしろ逆に驚きに賛嘆が混じっているというか、どちらかというと肯定的な表情が伺える。

「私の故郷では『戦士病』ではなく『狼戦士』という言い方の方が一般的だけど。」

と、前置きしてホーサケルベロスに話しかけている。

「『狼戦士』は恐れ知らずの無敵の戦士だと言われている。ケルベロスちゃんは、きっと強い戦士になれるわ。」

濡れた髪を拭きながら笑みを返すケルベロスだが、イマイチ表情はさえない。

「でもオイラ、目の前が真っ赤になったあと、何が起きたかよく覚えてないんだよね。」

と、自分でも困ったことになってる自覚はあるらしい。

たしかに、狩りの最中も頭のネジを飛ばしてしばらくはガウガウ言いながら暴れて、その間の記憶は残ってないみたいだったしな。

「ひとまずは、そなたの発作が起きても制御下におけるように軽い封印具を作る方が良かろうな。トート様より術式は教えていただいておる故、数日で用意いたそう。」

「良かったな、ワンコ。スカアハが何とかしてくれるとさ。」

姐御の尻馬に乗って、安心させるように肩を叩いてやる。

ケルベロスと笑顔で頷きあったところでご指摘が。

「何を申しておる。妾だけでなくそなたたちにも、封印具の使い方を覚えて貰うぞ。」

「え?ワンコのおつむがカッ飛ばないようにしてくれる道具を作ってくれるんじゃないの。首輪とか?」

「それでは修行になるまい。封印具は、妾やそなたらが、ケルベロス自身が衝動を抑えうるようになるまで手助けするための道具よ。」

うーん。つまり、暴れることは暴れるけどすぐに取り押さえられるようにするって事か。

それって孫悟空の頭の輪っかみたいなもんか?