異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-10-22

それにしても、みんな一応休日の予定は決まりつつあるようだが、オレはどうしたもんかね。

ホーサにくっついていって辺りを案内して貰うのも手だし、マッコール爺さん以下男どもと釣りに行くのも悪くないアイディアだ。あるいは、フィオナにくっついていって頑固オヤジ(想像)の顔を拝んで来るという手も無いではない。まぁ、そこまで厚かましいのもどうかとは思うけど。

とは言え。

完治したとは言え曲がりなりにも病み上がりの身だし、あまり外をウロウロしたりしないで、休日くらいはゆっくりしていた方がいいだろう。それに、基本的に根っからのインドア派なオレとしては、あまり外をウロウロしたりせずに、書庫で本の虫になったりしたいところだ。

もっとも、今のところ書庫はスカアハの管理下にあり一冊一冊貸し出して貰わなくてはいけない。本がそれだけ貴重品と言うことなのだが、とにかく休みの日までスカアハの手を煩わせなくてはいけないというのはいささか気が引ける。

とりあえず聞いてみるか。

「そういや、スカアハは休みはどうするんだ?」

コボルドナバルさんとなにやら打ち合わせをしていたスカアハが、一区切り付いたようなので声をかけてみる。

「妾か?妾は、館の中で色々とやることがある。」

「いろいろ、というと?」

問いかけを重ねてみるが、

「色々は色々だ。」

と片眉を動かすだけでさらりとかわされてしまう。

「何か明日したいことでもあるのか。遠慮せずに言ってみるが良い。」

「あー。もし迷惑じゃなかったら書庫から何冊か本を貸してくれないか。明日はちょっと体を休めようと思って。ついでに、文字に慣れたいんで何か読む物が無いかと。」

「ふむ。左様か。ならば何か今晩のうちに貸してや……」

と、スカアハが色よい返事を返してくれるところへ割り込む声が。

「ええー!!」

「一緒にいらっしゃるのではないのですか!?」

と、お子様二人が納得いかなそうな表情でこちらを見ている。

「怪我が治ったばかりだからまだ疲れやすいんだよ。悪いが明日は休ませてくれ。」

「そうね、大事を取った方がいいわ。……二人ともセタンタはまた今度一緒にでかければいいでしょ。」

優しくホーサに諭されて、二人とも一応納得したようだ。まぁ、ケルベロスはまだちょっと唇が尖ってたりするが。

「明日は妾もやることがある故、今宵のうちに書庫から出してやろう。この後一緒に参れ。」

「ありがとう。助かるよ。」

「なに、勉強熱心な弟子がいて妾も心強いぞ。」

リンゴ酒がいくらか回っているのか、少し朱のさした朗らかな笑顔で応える姉御。


食後、スカアハの後について書庫へ。

書庫といっても、教室に使っている棟の一部が半地下になっており、かなり広い空間が書棚に当てられている。奥の方には羊皮紙の巻物や豪華表本も置かれているが、手前にはに手書きで綴られた筆写本が本棚に所狭しと並んでいる。書名の並びを見てみると、どうやらちゃんとジャンル別に分類されているようだ。

「して。そなたどのような書を読みたいのだ。」

そう言いながらスカアハは、ランプの明かりを書庫の戸口に掛け、右手を自分の顔の前に出してなにやら囁き始める。

「参れ、いと小さき炎。瞬け、熱持たぬ光。出でよ、ウィル・オ・ウィスプ。」

ふっと吹き出したスカアハの息が、静かに渦巻いて空中にいびつな球体を作り出す。その球体は、緩やかに渦巻いたまま淡く光を纏い始め、二呼吸ほどの間に青白く瞬く鬼火を形作った。

「おおおー。」

「この部屋は火気厳禁ゆえな。」

オレの歓声にニコリと微笑んだスカアハの顔が、淡い光に照らし出されて幻想的に揺れた。