異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-10-28

「これ、火じゃないの?」

スカアハの手元で仄かに光を放つ人魂に、恐る恐る近づいて手を伸ばしてみる。

「熱を持たぬ故触れても大事ないが……」

スカアハの台詞が終わらないうちに、その鬼火はふわりと俺の手から逃れた。鬼火の後を慕って、辺りの空間に青く淡い鱗粉のような光の粒が連なって流れ、静かに明滅しながら暗がりに消える。そして微かに耳をくすぐるくすくすという笑い声。

戸惑ったオレをからかうように、鬼火はゆったりとオレの頭上を左右に漂い、部屋のかしこに鈴を転がすような囁き笑いがこだまする。

「これ。あまりはしゃぐでない。」

スカアハが苦笑しながら鬼火を招き寄せると、青く仄かに光る火の玉は、静かにスカアハの手元へと漂い戻った。

「これは、ウィル・オ・ウィスプと申してな。妾の使役しておる小妖精なのだ。」

スカアハの手の上で、鬼火が次第に暗くなる。その光が弱くなるにつれて、その後ろに小さな人影の輪郭が現れる。身長2~3インチの輪郭のぼやけたその人によく似た生き物は、両腕でなにやら小さなガラス玉らしき物を抱えていた。

ほっそりとした人影は、中空でオレにお辞儀らしきポーズを取って見せた。

「お、おう。これはご丁寧に。」

オレが慌ててお辞儀を返すと、くすくすという笑いがまた微かに響く。すると、人影の輪郭は次第に薄れ、その手の中の玉が輝きを取り戻していった。瞬きを二度もする頃には、そこには元通りの人魂が青白く光っていた。

「この者等はゼースプリガンよりもさらに小さき者達で、より精霊に近いのだ。それ故、人の言葉を辛うじて解するほどの知性しか持たぬが、より精霊に近い根源的な力を持っておる。」

そう言って、目の前の鬼火を招き寄せた。

「この『ウィル・オ・ウィスプ』と言う名も、様々な名も無き小妖精や小精霊のうち、光を放つ力を持つ者を我ら魔術の使い手がそのように括っているに過ぎぬ。」

「へぇーーー。」

つまり、魔法魔法でも召喚というか使役というか、とにかく魔法的な生き物を扱き使っているというわけだ。

「もしかして、スカアハとこのちっこいのは、契約とかそんなのをしてるの?」

「そうだ。この者は、妾が必要とするときに光を差し掛ける。その代償として、妾はこの者に名を与えた。」

「名を与える、ってどういうこと?」

オレの質問に、スカアハは苦笑する。

「簡単に言えば、妾がそなたに『セタンタ』という名を与えた。それと同じ事ぞ。」

「名付け親って事?」

「そうだ。魔術の最大の法則は名を与えることで相手を縛ることだ。そして、名を与えることは相手の『存在』を認め、保護する責務を負うことだ。妾は、この者に名前を与え、保育し、存在を証立てる責務を負う。そして、この者は妾に労力を提供する。まさしく、契約と呼んで良い。」

ははぁ。イマイチ分かるような分からんような。それにしても、名付け親が使役する側って事は……

「……って、名付け親がスカアハって事は、もしかしてオレもこの子と同じ立場って事か?」

「妾とそなたは何も契約しておらぬであろう。また、そなたにはこの者等と違って真名が既にあり、名を与えられる以前に『存在』としての本質を獲得していた。それは些細なようで非常に大きな差だ。」

んーむ。なんだか感覚的には理解できている気がするんだが、正確に理解しているかどうかあまり自信がない。

オレが考え込んでいるのを見かねたのか、姉御は手近な書棚から一綴りの冊子を取り出してオレに差し出した。その本の表には、『魔術の手解き』と丁寧な筆跡で綴られていた。

「我が師が手ずから書かれた入門書だ。まずはこれを貸してやろう。」