異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-10-29

「他にも何冊か貸してやろう。どのような書がよいのだ。」

魔術についての話は切り上げて、とりあえず本をさっさと借りてしまおう。一度解説本を読んでから質問した方が早そうだ。

スカアハから渡された冊子の表を覗き込むと、『記述:ヘルモポリスのトト 筆写:ワレンディルスカアハ』と署名が入っている。……作者がトート爺さんというのも、イマイチ信用がおけないが、あれで一応魔術の権威らしいので欺されたと思って読んでみよう。

で、他に借りたい本だが。

オレ的心づもりでは、

  • 世界地図
  • 影の島の地図とガイドブック
  • 歴史の入門本
  • 代表的な小説や戯曲作品
  • 科学や技術系の本

辺りで在庫を聞いてみようと思っていたのだけれど、やはり優先順位は地図類が先かな。

「とりあえず、世界地図とか地図帳があったら見せて欲しいんだけど。」

とりあえず聞いてみると、スカアハはじろりとオレを見据えた。

「……な、なんですかい?」

「……。大判の地図故、貸し出すわけにはいかぬが、良いな。」

なにやら念を押すようにオレを見つめたあと、姐御は口元を引き結んで書架に歩み寄った。壁際の書架には、子供の背丈ほども幅のある巻物が数点掛けてある。スカアハは、そのうちの一本を慎重な手つきで取り出すと、懐から取り出した手巾で丁寧にほこりを拭った。

「こちらに来て、巻き棒を支えてくれぬか。」

スカアハに言われて、大きなテーブルの前で巻物の軸を両手で持つ。スカアハが巻物の端をゆっくりと引き始めると、目の粗い大判のが静かに紐解かれた。

「これ……ヨーロッパ?」

オレの声を聞いた姐御は、悪戯っぽくそれでいて幾分忌々しげな、何とも曰く言い難い表情でオレを見た。

台の上に完全に開いた巻物には、海岸線と山や森や川などの地勢、あるいは都市と街道を指すと思われるいくつかの点と線などが手書きで丹念に書き込まれている。

幾分黄ばんだ厚手のに長々と描かれている海岸線は、紛れもなくオレの記憶の中のヨーロッパ西部から地中海に掛けての海陸図にほぼ合致している。

アナトリア半島とオリエントと北アフリカに囲まれた東地中海と黒海らしき水域。バルカン半島とアペニン半島に囲まれたアドリア海。シチリア島、サルディニア島、コルシカ島を囲む北アフリカとイベリア半島。ブルターニュ、ノルマンディ、グレートブリテン島とアイルランド、ユトランド半島、そしてスカンディナビア半島。北西の端にはアイスランドらしき島も描かれている。

海岸線にしても山並みにしても、所々手直しされたあとがあったり、微妙に色合いの違うインクで描かれていたりと、かなり苦心惨憺して作られたことが伺える。

「これを書いたのは、もしかしてスカアハ?」

オレが確認を投げかけると、スカアハはオレの目を真っ直ぐに見ながら頷いた。

「古地図を当たり、実際に大まかに測量をさせた。山地や森林はいささかあやふやではあるが、主立った地勢や都市の位置関係は概ね正しいであろう。ここまでまとめるのに100年近くかかった。」

蒼い光の向こうに強い眼差しを煌めかせて、スカアハは言葉を続ける。

「して、そなた今『ヨーロッパ』と申したな。それは何だ?」

「え?……えーと。その、オレの前いた世界にも、これとほとんど同じ海岸線の地域があってさ。その地域というか亜大陸を『ヨーロッパ』って呼んでたんだ。」

「ふむ。そうか。ならば、他の地域も見てみるか。」

何か確認するように頷いた姐御は、いくらか小振りの巻物を取り出して広げた。

「………ああ、同じだ。」

そこには、ヨーロッパを中心に、ロシアから中央アジア、イランからインド東部、アラビア半島、アフリカ北部、さらには北アメリカ大陸東岸から東インド諸島周辺までを含んだ世界地図が描かれていた。細部まで一緒かどうかは自信がないが、ぱっと見違いがあるようには思えない。

「……つーことはもしかして。ここが影の島で、アルビオンはここ?」

アイルランドとグレートブリテン島を指し示すと、

「いかにも。良くわかったな。」

姐御は口元に笑みを湛えつつ肯定した。