異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2006-11-25

「いいのか?なんか仕事あるんじゃないの?」

「お昼までで当番が終わりましたから。午後からは大丈夫です。」

「そっか、んじゃお願いしようかな。」

当番ってなんだろうと思いつつ、お願いすることにする。

「こう見えても、魔術は結構得意なんです。あ、でも、女神様や大妖精の方々のように、際限なく使えるわけではありませんけど。」

いつもの控えめな態度と比べて、魔術の話をしているときは口調も軽いし語調も弾んでいる。それだけ自信があるんだろう。少なくとも、自信が生まれるくらいにはその道に打ち込んできたということだ。

「わかったよ。レー先生、ヨロシクな。」

「あ、いえ、あの。先生だなんて……」

とたんに照れ始める。こういうところは性格が出るなぁ。


昼食の席は、人数が少ないということで大きな丸テーブルが用意されていた。全員が輪になって腰掛ける。オレ達が一番最後だったようで、他の皆は既に席に着いていた。

「遅れてゴメン。」

セタンタ、時間は守るように。早く座るがよい。」

ごく短くぴしゃりと叱られた。それほど怒っている様子ではないけれど、やはり叱るべき時に叱らねば示しが付かないということなのだろう。

「あ、はい。済みませんでした。」

つい癖で誤魔化し笑いを浮かべつつ、開いているスカアハのとなりに座る。

スカアハとオレを入れて10人と妖精3人のこぢんまりとした昼食が始まった。

まかないのおばちゃん達が持ってきてくれた昼食のメニューは、具をタップリと溢れんばかりに挟み込んだ薄焼きパン。つまりは、サンドイッチというかタコス風の食べ物である。

これまでのメニューにも手づかみで食べる料理は多かったが、パンとおかずを最初から一緒にしている料理は今までなかった。

へー、こういう料理もあるんだな。

「いただきます。」

手にとって食べようとすると、なぜかスカアハを除く周りの連中が全員オレの方を見ている。それも、マジマジと。

「なに?どしたの?」

戸惑って手を止めると、

「こういう食べ方はここではあまりせんのだ。気にいたすな。」

そういって、スカアハは恐る恐る目の前のタコスもどきに手を伸ばす。具がありすぎでこぼれ落ちそうになるのを、四苦八苦しながら手に持とうとする。

「えっと。パンの繋がってる側を下にして、両端を摘んで。下が三角形になるように。」

手元で持ってみせる。スカアハもオレの真似をして、危なげな手つきで両手に持ち上げる。かなり不安定だけど。

つーか、そもそも具が多過ぎなんだけどね。

「あとは、とりあえずかぶりつけば。」

天辺から大口を開けて噛みつく。肉やら野菜やら酢漬けやらチーズやら、色々な味が一遍に口に飛び込んでくる。なかなかトータルの味を考えていないせいかワイルドな味わいだが、これはこれで結構うまい。

具が多すぎるせいで、かぶりついた端から皿に具がこぼれる。

「こぼしても気にせず食べればいいよ。皿に落ちるように気をつけて食べれば。」

オレの食いざまがちょっと野性的すぎたのか、みんな最初呆然と見ていたが、スカアハが最初の一口をかぶりつくと、おっかなびっくり皆も真似し始めた。

「しかし、突然なんでこんな食い物が。みんな食べ慣れてなかったみたいなのに。」

一足先に一通り平らげてから聞いてみる。

「実は、ケルベロス様から、今日持って行くお弁当はこういったものが食べたいとご希望がありまして。」

賄い頭というか、厨房の主人であるおばちゃん『エセラ』さんが、なにやら恥ずかしげに答えてくれた。

「狩りの時にセタンタ様がこういう食べ方をしてらしたと聞きましたので。初めてなので……上手くできましたでしょうか。」

「うん。旨かったよ。ごちそうさまでした。……ワンコが手間かけさせて悪かったね。」

オレがお礼とお詫びを述べると、嬉しそうに照れながら、新しい料理を覚えられて良かったと言ってくれた。

「ま。あまり行儀の良い食べ方ではないゆえ、普段はあまり良くないが、外出するときなどにはこういうのも良かろう。」

そういうスカアハは、珍しく口の周りをソースで汚していた。なかなか微笑ましい光景にクスリと笑ったら、頬を赤らめて急いで口の周りをナプキンで拭っていた。