異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-01-14

夏の気長な太陽がそろそろ赤みを増して地平線に近づく頃、出かけていた二組が時を同じくして戻ってきた。

できあがった杖を受け取って、杖にキャイキャイ喜んでまとわりつくノゾミ君を連れて井戸で水を飲んでいると、門の向こうに馬を連れた一団がこちらに向かってくるところだった。

「にいちゃ~ん!!」

まだ草原の向こうの丘にかすかに人影が数人見えるだけなのに、その中に飛び上がって手を振っている奴がいる。

そいつは手を振りながら凄い勢いで突っ走ってくる。

「おーい!」

と手を振っている間に、ぴょこんと飛び出た耳と勢いよく揺れるしっぽが目に入り、すぐに大きく開いた口とドングリまなこが判別できるようになった。

「にーちゃんただいま!!」

上気した頬を夕日の金色に染めて、ケルベロスが元気よく声を上げる。満面の笑みを浮かべているから、どうやら外出は存分に楽しめたようだ。

「おう、おかえり。楽しかったか?」

走ってきたそのままの勢いで、オレの腹にがつんと突っ込んでくるワンコを、慌てて腕で抱える。

頭をワシワシと撫でてやると、なにやらお日様に干した布団みたいな匂いがする。

「兄ちゃん、オイラたち山の麓まで行ったんだぞ!滝があってな!それで……」

と、一気呵成にしゃべり出したワンコが、ぴたりと口を止めた。

「あん、どした?」

胸元に抱きついているちっこい奴の顔を覗き込むと、オレが右手に握っている杖をじーっと見ていた。

「……なにこれ?」

そこには、長さ約10フィート(3m)の杖の先からにょろ~んと頭だけ突き出している光るヘビ、ノゾミ君の姿があった。

どうやら、杖に宿るというか、その中に住まうことに成功した上に、体の一部を出し入れするのも自由になったらしい。非常に胡散臭いのでやめて欲しいところではあるが。

「あー、これはな。オレの新しい相棒で、光霊のノゾミ君だ。気軽に『ノンちゃん』とか『ノノっち』とか呼んでやってくれ。」

気さくにそう声を掛けるが、ワンコはなにやら怪訝な表情を浮かべつつオレの体をよじ登りはじめた。

「ど、どうしたワンコ?」

するすると器用に背中からオレの首に上ったワンコは、勝手に肩車状態に移行して太ももでオレの首を挟んでこういった。

「こっちはオイラの場所だからな!」

杖の上できょろきょろと首を動かしているノゾミ君に、なにやらきちんと宣言したかったらしい。

「あのなぁ。オレはお前の縄張りじゃねーぞ。」

という声も空しく、ノゾミ君とワンコはなにやら通じるのか通じないかわからない会話をオレの頭上で開始しはじめていた。


うきゃうきゃとかきゃいきゃいと忙しなく騒ぐ一人と一匹というか二匹というか、とにかく二人にされるがままになっていると、さらに傾いて赤みを増した夕日の中、一群の人たちが門をくぐって近づいてきた。どうやら、ホーサ一行とマッコール爺さん一行が合流して一緒にかえってきたようだ。

「おかえりみんな。」

「ただいま、セタンタ。」

馬を牽きながら先頭を歩くホーサに続いて、シグルーンベレヌスも笑顔で返事を返してくる。どうやら、皆楽しく休日を過ごせたようだな。

「もうすぐ夕飯だそうだよ。みんな準備をして来た方が良いな。手伝うよ、ホーサ。」

三々五々館に入っていく一行を見送りながら、ホーサの馬具を下ろしてもってやる。

「ありがとう、セタンタ。」

「いや、引率大変だっただろ。」

「ん、そうでもないわ。みんないい子にしてたし。」

「みんな無事で戻ってきて何よりだ。」

そんな会話を交わしつつ、オレは『そう言えば誰か足りないような』などと思っていた。