異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-01-20

出かけていた一同が身支度やらなにやら済ませて食堂に集まると、夕食が始まる。

だが、いつもの食卓に席が一つぽつんと空いていた。

弟子達に割り当てられたテーブル、ホーサベレヌスの間の席が空いている。フィオナの席だ。

フィオナ、まだ帰ってきてないのか?」

自分もホーサケルベロスの間の席に腰を下ろそうとして、長大な杖というか棍棒というか木槍というか、とにかくノゾミ君の宿り木の置き場に困ってウロウロしながら、誰とも無しに聞いてみる。

「今朝出かけるときには、夕食までには戻ると言ってたけれど。」

「オレも昨日、日暮れまでに戻るって聞いたんだけどなぁ。」

ホーサと二人で首を傾げてみるが、帰ってこないモノは帰ってこないのだから仕方がない。

ギリアムさんはなんか聞いてる?」

「いえ、私も特には。」

一番事情を知ってそうな人に聞いてみるが、どうやら心当たりはないようだ。

「……んー、いや、もしかしたら。」

なにやら思い出した様子。

「なにかあるの?」

「いえ、それほど大した話ではないのです。フィオナ様はお父上のコノーア様と折り合いがあまりよろしくないので、もしかすると談判が長引いているのかもしれません。」

ギリアムさんは心配そうにそう言ったあと、やはり自分も一緒に行けば良かったと独りごちた。

「まぁ、父親と話してるんだったら特に危ない目に遭っているわけでも無さそうだな。」

「ええ、恐らく向こうに泊まってこられるのではないかと。」

どうやら心配の必要は無さそうだ。いやむしろ、あの鋼鉄のお嬢が危ない目に遭っている様子というのは些か想像しがたい。下手に手を出す人間がいれば、フィオナよりもそっちの方に命の危険を感じるくらいだ。

「ま、フィオナなら何があっても大抵は大丈夫だろ。」

肩を竦めつつ言うと、姉御から静止の言葉が。

「しばし待て。フィオナに事情を聞いてみるゆえ。」

そう言うと、スカアハはなにやら胸元から手のひらほどもの大きさがあるメダルをたぐり出した。よく見ると、銀の地に赤みがかった金の象眼が施されているようで、ちりばめられた宝石と組み合わせて見事な大輪の薔薇を描いている。

模様こそ違うが、姉御に貰ったオレの護符とよく似ている。

スカアハは、その自前の護符を口元にもってくると、まぶたを閉じてなにやらブツブツとまじないらしき物を唱えはじめる。

すると、服の下のオレの護符が一度軽くブルッと震えた。

「うぉ!?」

慌てて服から護符を取り出してマジマジと見る。右手で握ってみると、急に脳裏に音が響いた。

『……だタラにおるのか。』

『は、はい。父と今揉めておりまして。いや、なに、頑固な父など放って置いて、明日には館に戻りますので。』

最初の声はスカアハの落ち着いた声。すると、答えているこの声は……

『……フィオナ?』

『誰だ!……セタンタか?』

思わず漏らした思考の声に、驚いたような返答が帰ってくる。

セタンタ!」

耳を打つ叱咤の声に驚いて護符から指を話すと、その思考の声はすぐに聞こえなくなった。

「盗み聞きなどいたすな。食後に皆にも使い方を教える故、大人しく待っておるがよい。」

「ごめん。悪気はなかったんだ。」

慌てて謝ると、姉御はじろりとオレを一瞥してまた目を閉じた。

どうやら、テレパシーっぽいのを使っているらしい。そして、オレとフィオナが喋れたって事は、オレも同じ事を能動的にできるって事か?

いや、きっとこの護符に仕掛けがあるんだろうな。オーリン族の村に行ったときも、この護符で遠隔監視をしてたと姉御は言ってたしな。

肩を竦めつつ、手にもったままだった長杖を壁に立てかける。物干し竿くらいの長さがあるので、ホントに置き場に困る。

「ここで大人しくしてろよ。」

と一応言ってみるが、ノゾミ君は俺の意見などどこ吹く風。

勝手に杖から鎌首だけをもたげ出して、興味津々と言った様子で周囲をしきりにうかがっている。

「……しょうがないなぁ。」

期待の視線をこちらに向けているノゾミ君に手招きをする。

「出てこいよ。みんなに紹介してやるから。」

「ショウカイ?ミンナ?」

良く理解できてない様子ながら、光のヘビは嬉しそうに木の中から滑り出して、オレの首から胴にかけて絡みついた。