異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-02-11

そんなわけで、翌日の朝食後に出かける一行が集まる。

人員は、リャナン・シーさん、ホーサレーギリアムさん、オレ、そしてマッコール爺さんの配下であるところのマウルさん。

マウルさんは年の頃50代の壮年の男性である。平均寿命が決して長くないこの世界では、50代というと既に片足初老に突っ込んでいることになるそうだが、なかなかどうして頑健な感じの人物である。

背丈は5フィートインチ(172cm)ってところだろうか。平均身長よりは若干高いかもしれない。幾分猪首気味になった肩はがっちりと広く、腕も随分力がありそうだ。日に焼けて皺の多い顔には、人が良さそうで有りながらも渋みのある笑顔が常に浮かんでいる。僅かに薄くなり白いものが混じった頭部には、誇らしげに厚手のフェルト布で出来た鍔広帽を被っていた。というか、この帽子、いわゆる西部劇に登場するテンガンロン・ハットほぼそのままなのだが。朱く鮮やかな羽根が一差し鍔の根本から立ち上がっているのがなかなかオシャレ。

「道中お願いします。それにしても、いい帽子ですね、それ。」

などと水を向けてみると、

「ええ!実はこの帽子、スカアハ様に戴きましてね。我々ご奉公衆だけがこの帽子を被ることを許されておるのです。」

などと実に嬉しそうに語り始めた。

「……いや、私の姉が巫女でしてね。その縁でフィン様にお仕えするようになったんです。一昨年女房が亡くなりまして、家の方は息子どもに任せておけるんでこちらのお屋敷にご奉公に上がりまして。いや、体のいいやっかい払いですわ……」

いや、オッサン、思ったより随分話し好きですな。ま、いいけど。

そんな風にくっちゃべっている間も、マウルさんは手際よく馬を二頭馬車に繋ぐ。

今回、ホーサギリアムさんは自前で馬に乗り、リャナン・シーさんとレーは荷馬車に乗り、マウルさんは御者、オレだけが歩きである。

一見、オレだけ差別待遇っぽい気もするが、これはスカアハの指示なので仕方がないのだ。

「折れた足も無事回復したようであるし、少しでも歩いて力を回復するのがそなたのためぞ。」

ということである。まぁ、前回のオーリン族行きと違って、荷物なんかは馬車に乗せて貰えるから良しとしよう。手には例の長い杖だけを持っている。

出発の準備が整ったので、見送りの人々に軽く手を振る。

見送りには、仕事で忙しい人たち以外、館の一同が揃っていた。

「行って参りますわ。スカアハ様。」

リャナン・シーさんが優雅に腰を折って礼をすると、スカアハも応えるように頷いた。

タラまでは街道沿い故さして心配も無かろうが、気をつけて参れ。」

姉御の見送りの言葉に、出かける側一行が首肯する。

そのスカアハの横には弟子一同とアルケイア姐さん、そしてマッコール爺さん。

「儂の身内がお手を煩わせてすみませんな、ホーサ様、セタンタ様。」

爺さんは、苦笑しながら恐縮して見せた。

「フィンさん。フィオナは私たちの姉妹弟子ですから。困ったときに助け合うのは当たり前です。」

ホーサの言うとおりだ。まぁ、あんまり気にしなさんな。」

オレたちが言うと、爺さんは苦笑を深くした。

その後、爺さんはギリアムさんになにやら小声で指示を出していた。

爺さんと姐さんの隣で、何だか不満そうにこちらを見上げている視線が二つ。ケルベロスシグルーンのちびっ子二人である。二人とも、お出かけメンバーから外されてご機嫌が芳しくないのである。

「しょうがないだろ。遊びに行く訳じゃないんだから。一応。」

ムスッとした妹どもの頭を撫でてやるが、ご機嫌は斜めのままだ。

「……そうだなぁ。まぁ、二人にはなんかお土産もってきてやるから。」

ちょっと苦し紛れに言ってみると、面白いように態度を変える奴が。

「ほんとか兄ちゃん!?約束だからなっ!」

今泣いたカラスがもう笑う、とでも言うべきか。ころっと表情変えやがって。

そのとなりのお嬢も、

「土産などあまり期待しておりませんが、道中お気をつけ下さい、兄上。」

などと、そっぽを向きながらも口をきいてくれた。

「心配してくれてありがとな。」

苦笑しつつその後ろのベレヌスに視線を向ける。

「じゃ、行ってくるわ。そんなに掛からないとは思うけど、こいつ等のことよろしく頼むな。」

「ええ、私も兄の一人ですから。妹たちの世話は出来る限りやりますよ。」

その返事に、正直かなりホッとした反面ちょっと寂しい気もしたのは、きっとこのところの兄弟ごっこが、自分で思うよりずっと居心地が良かったということなのだろう。