異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-02-17

「……確かに火事だわ。」

目を凝らしたホーサが馬上で呟く。

「私が見てくるわ。」

そういってすぐさま手綱を引き馬に拍車を入れる。蹄の音も高くホーサの駻馬が走り出す。

「え!ちょっ!?」

とか言っている間にもその姿は急速に遠ざかる。

「一人で行かせるわけにいかないんで、オレも追いかけます!皆さんはゆっくり付いてきて下さいっ!」

振り向いてギリアムさんとリャナン・シーさんに目配せする。

セタンタ様!私も!」

走り出そうとしたところに、レーが馬車から飛び出してきてオレの肩にしがみついた。

「掴まってろよっ!」

レーが何とか足場を確保したのを確認して、すぐさま走り出す。

右肩には長杖一本、腰にはヌァザさんから貰った短剣が一振り。鎧の類は全く身につけていない。上着の下に着ている革の胴衣が、多少なりとも防具としてものの役に立つかもしれないが、あてにするほどのものでも無かろう。

いずれにしろ、荒事に巻き込まれるとしたら、幾分心許ない装備ではある。

きっと一番頼りになる装備は、オレの足元を固めるサンダルだろう。

道を駆けながら視線をやると、つま先と踵を柔らかく覆う履き物が見える。その両脇には小さく羽根飾りがあしらってある。トート爺さんから頂戴した魔法の靴『タラリア』である。靴といっても見た目はサンダルだけど。

流石にせっかく貰った物の使い方を知らないのも不味いので、ヌァザさんから貰った短剣『エヴェント』、オーディンのオッサンに貰った腕輪『ドラウプニル』とともに、この靴の使い方も姉御に聞いておいた。姉御曰くこの靴は、一夜に千マイルを駆け、海を跨ぎ山を飛び越える魔法の靴なのだとか。

ともあれ、スカアハから教わったとおりに、その力を引き出す言葉を紡ぐ。

『疾く運べ、伝令の足よ!軽やかに速やかに、野を吹き渡る風の如く!』

道を疾走する自らのイメージを想起しつつ、サンダルに仕事を命じる。その直後、大地を蹴っていたオレの足が急に軽くなり、周囲の景色がそれまで以上の速度で後方へ流れ始める。後ろから猛烈な追い風に後押しされるように、オレの駆け足は爆発的に加速する。

なお、先日初めて試してみた際のアルケイア姉さんの見立てによると、この『タラリア』を使った最大速度は馬の襲歩を越えるそうだ。時速60マイルくらいとか言っていたから……時速100km近い。

「振り落とされるなよっ」

「はいぃぃっ!」

左肩にしがみついたレーを気にしながらも、さらにスピードを上げる。注意しながら速さを調節して、体の感覚的にはジョギング並の負荷にする。時速でいくと40kmは越えているだろうか。たぶん、この状態で転ぶとあんまり嬉しくない事態になると思う。ぞっとしない話だ。

「あんまりこういうのを頼りにするのも良くないんだろうけどな。」

「でも、せっかくですから早く使い慣れた方が良いですよ。」

ふとぽろっと零すと、耳元からレーの答えが返ってくる。

「ま、そうだな。」

と苦笑する。

「ハヤイハヤイ!」

頭上からはノゾミの楽しげな声が聞こえる。


ほんの数分でホーサに追いつき、そのまま村を目指して走る。街道を走ること数十分で、集落のすぐ側まで辿り着いた。

速度を落として呼吸を整える。とは言っても、これだけのスピードで走ってきたのに額に汗が滲む程度しか疲労していないし、息も荒くなるほどではない。ホーサの馬の方が鼻息が荒いくらいだ。

近づきながら様子を覗うと、集落の中は大騒ぎだった。

燃えさかる数戸の家屋。

手桶の水を掛けたり、家から家財道具を持ちだそうと懸命に働く人たち。

手に手に得物を持って走り回る男達。

「火を付けた奴を探せっ!!逃がすなっ!!」

ひときわ大きな声が聞こえてきた。

「どういうこと?」

「……わからない。」

ホーサと顔を見合わせる。