異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-02-18

「遠くには行っていないはずだ!妖術を使うかもしれん、怪しい奴が居たら構わんから矢を射込め!」

なにやら殺気立った様子の村人にいささか腰が引けるが、向こうに発見されてからだとかえって危ないかもしれない。ここは堂々とした態度で行った方が良い。

「おーい!!何事だー!!火事かー!!」

遠くから声を掛けてみる。

声に気付いて振り向いた男達が、オレ達を見てギョッとした表情を浮かべる。慌てて得物を手に構えるもの、ガラタイ弓に矢を番えるもの、革の投石ヒモを回し始めるもの。

「待てっ!オレ達は怪しいものではないっ!」

機先を制して声を張り上げる。

だが、ザワザワと不安げに互いを見交わす男達は、得物を構えながらジリジリとオレ達に近づいてくる。どうやら包囲するつもりのようだ。

「きっとこいつ等は山賊の仲間だ!引捕まえろ!」

どうやら、頭に血の上った連中にはオレやホーサが盗人だか山賊だかの一味に見えるらしい。頭目らしき人物のかけ声とともに、目を血走らせた男達がどっと掛かってくる。

ホーサ!気をつけろ!」

セタンタもね。」

後ろの馬上姿に声を投げると、随分と落ち着いた声が返ってくる。

ちなみに、『気をつけろ』は二重の意味で言っている。自分の身を守るのは当たり前だが、この村人連中に余計なけが人や死人を増やさないように、と言う意味も込めて。

どうせ、このまま申し開きしても聴きやしないだろうし、頭が冷えるまで軽くあしらっておいた方が良いだろう。

そう考えて、手の中の杖を振りかぶりざま一歩踏み込み大きく薙ぎ払う。杖の先が狙った場所に吸い込まれ、先頭の村人が持つ槍の手元を打ち据える。短い悲鳴を上げて得物を取り落とすのに構わずさらに踏み込み、二人目の足を跳ね上げて地面に転がし、三人目の肩口を突き飛ばす。転がった三人目は、後続の連中にぶち当たって将棋倒しになった。

ちらりと振り返ると、ホーサに向かって行った連中からも短い悲鳴や地面を転がる音が聞こえる。馬上のホーサがサーベルを鞭のように振るうと、得物同士が触れあう音はほとんどせず、短い悲鳴ばかりが数度響く。

顔を蒼くした村人連中が尻込みするのを見て、ホーサに駆け寄って辺りを睥睨する。この辺が頃合いだろう。せっかくだからかの有名な台詞を使わせて貰おう。

「ええいっ!静まれ、静まれぃ!」

杖を右手に立てて仁王立ち。腹の底から一喝を絞り出して村人を静止する。

呆然と手を止めてくれたのをコレ幸いと、続きの台詞を叫ぶ。

「このお方をどなたと心得るっ!畏れ多くも女神エポナ様のご息女にして、女王陛下スカアハ様の一番弟子、ホーサ様なるぞっ!!ええい、者ども頭が高いっ!控えおろうっ!!!」

一同ポカーン呆気にとられてとこちらを見ている。

「……なにしてる。ほらっ跪け。ほれほれ。」

出来の悪い召使いを叱りつけるように促すと、狐に摘まれたような表情で男達は膝を付いた。

「ではホーサ様、お言葉を。」

芝居がかった声で馬上を振り仰いで見ると。

「……え、……なに?」

誰よりも戸惑った表情でホーサが居心地悪そうにしていた。

「あー、その。軽く叱ってやってくれ。後の事情はオレが聞き出してみるから。」

ホーサはコクンと頷くと、冷たい笑みを口元に浮かべた。そのままホーサの視線が一同をにらみ据える。

「皆さん。少しばかり悪戯が過ぎるのじゃありません?」

「も、申し訳ございませんっ」

なにやら誰かさんによく似た『怒りの微笑み』の表情に、堪らず一同頭を下げたのだった。