異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-04-28

下生えを上手いこと避けて走り抜けるタム・リン。

そのスピードは、平地を疾走するのと大して変わらない。タラリアのアシストと二回りは大きい体格のおかげで、オレも何とか遅れずに付いていくことはできるが、気を抜くとその背中を見失いそうになる。

やはり経験の蓄積に差だろうか。イメージ的には、妖精だから森に強いのは当たり前だと思ってしまうが、以前聞いた話では、なにも森で暮らすエルフっぽいのばかりが妖精族ではないようだし。革細工職人がおおい妖精やら、漁師ばかりの妖精なんてのもいるらしい。

胸のざわめきを無理矢理押さえ込んで、そんな埒もないことを考えつつ妖精騎士の後ろ姿を追いかけていると、不意にそのタム・リンが立ち止まった。

「うぉっと!」

「しっ」

ぶつからないように慌てて立ち止まる。思わず声を漏らしたら、タム・リンに睨み付けられてしまった。

最初のどこか覚めた様子と、やる気になった後の態度には随分違いはあるものの、冷ややかで神経質そうな目つきはあまり変わらない。その視線に僅かな苛立ちを覚えるが、深呼吸一つとともに飲み下す。

「すまん。」

小声で言うと、タム・リンは面倒くさそうに一言、

「いえ。」

とだけ返した。

何でこんなに狷介な態度なのかねぇ。などと、少し呆れながらその秀麗な顔立ちを眺めるオレを他所に、タム・リンは正面を指差した。

「見張りは一人ですね。どうします?」

小声で囁くその声に視線を転じると、ほんの20フィートほど先に粗末な槍を抱えた男が突っ立っていた。どうやらこいつが歩哨らしい。

オレ達の居る林の端から、10フィート少々が切り開かれていて、崖のふもとまでは草の生えた見通しの良い空き地になっている。崖に横穴を掘って牢代わりに使っているらしく、その入り口には木組みで思いの外しっかりした戸口が作られている。

その戸口の前に篝火が置かれていて、やる気のなさそうな薄汚れた男が見張りに立っている。年は20代半ばくらいだろうか。明るい色の金髪と口ひげは、あまりエリン族には見かけない特徴だ。

篝火はそれほど大きくないが、それでも辺りをゆらゆらと揺れる炎で照らし出している。森林の端から見張りまで、一番近いところまで15フィート(約4.5m)はあるだろう。気付かれずにすぐ側まで近づくのは難しいだろう。

「お前さん、アイツの後ろに忍び寄れるか。」

ダメ元で聞いてみるが、

セタンタ様はいかがですか?」

と質問で返された。

「まぁ、無理だと思ったよ。」

オレが肩を竦めてみせると、すっと細めた鋭い視線がこちらを向く。オレも、負けじと剣呑な視線で睨み返す。

互いの間に気まずい空気が流れる。

「あ、あの。この状況では、"影隠し"の術でも使わない限り、気付かれずに近づくのは無理かと。」

レーの声で、互いに視線を外す。

大人気ないというのは良く分かって居るんだが。どうも、こう、久しぶりに『虫の好かんヤツ』に出くわしたせいか、オレの態度もついつい鼻持ちならない方向へ向いてしまう。

気を使ってくれたレーに内心で感謝しつつ、気を取り直して話を進める。

「んーと、その"影隠し"ってのは?」

「姿や気配を消してしまう魔術です。影の妖精が得意にしているとは聞きましたが、即興で使える術ではないかと思いますが。」

オレの質問に、冷静にツッコミを入れるタム・リン。

「あ、あの、その。"影隠し"は、た、例えです。使うとすると、準備に半刻は取られてしまいます。ですから、その……申し訳ありません。」

「いや、いいって。レーの世話になりっぱなしってワケにもいかないし。」

しどろもどろになったレーに、申し訳ないのはこちらだと思いつつ苦笑する。

「時間もないことだし、物音で注意を惹いてこっちまで誘き寄せよう。近寄ってきたら、オレが後ろから締め上げて失神させる。お前さんは、もし失敗したらすぐ仕留められるように控えててくれるか。」

オレの判断に、妖精騎士

「いいでしょう。最初から射殺した方が確実だとは思いますが。」

と同意しながらも異見を挟むことを忘れない。