異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-06-09

槍から発せられる強烈な光が消えて、ボンヤリとした松明ほどの明るさに戻ると、溜め息めいた一瞬の静寂の後、急に周囲から大声が一斉に沸き上がった。

歓声、悲鳴、そして絶叫。

どれもひどく興奮した声でしきりに何か言い立てている。

「なんだこりゃ!すげー!!!」

「光の神だあ!」

「助けてください!助けてください!おれっちはもう悔い改めます!」

あまりに次から次へと声が聞こえてくるので、一つ一つを聞き分けることが難しいほどだ。どうやら、皆が皆パニックに陥っているようだ。あるいは喜びに、あるいは驚きに、あるいは絶望に。口々になにやら喚いている様子はちょっとした集団ヒステリーのようにも見える。一瞬、周囲の山賊達が激情のあまり襲いかかってきたりしないかと身構えてしまったが、どうやら皆驚くのに手一杯でそれどころではないらしい。

視線を正面に戻すと、さっき地面にうずくまった大男は、両足を地に投げ出してがっくりと座っていた。まさにザ☆脱力という感じ。

目の前にへたり込んでしまった髭男が哀れで何か声をかけてやろうと思ったが、この大騒ぎが収まるまではどうせマトモに通じないだろう。それに、今のところ刃向かう気力は全くなさそうだが、いつ正気を取り戻すかも分からない。

とにかく一度、この騒ぎを静めよう。

右腕の黄金の腕輪に左手を置き、キーワードを呟く。

「王の名をもって命じる。我が声を知らしめよ、ドラウプニル。」

腕輪に静かに魔素が流れ込み、その還流した魔素がオレの周囲の密素と結びついて効果を発する。

スカアハに聞いた話では、オレに授けられた三つの宝物の中で、一番価値が高いのはこのオーディンのおっさんから貰ったドラウプニルだと言う。

その効能は主に三つ。

その一つは、身につけたものを励まし勇気を与えること。

もう一つは、これを身につけたものに威厳を与え、周囲の注目を集めることができること。

そして最後に、周囲に響き渡る大声を与えること。

要するに、ドラプニルは人を率いて人の先頭に立つ者にとって重要な『目立つ』力を与えてくれるわけだ。

もっともよくよく考えてみると、人より目立つもんだから余計なトラブルが向こうから寄ってきたり、影でコッソリとか平穏無事にヒッソリとかは望めないわけだから、あまりいい面ばかりでもないのだが。

ともあれ、ドラウプニルの魔力を引き出せば、オレの声はかなり遠くにいる人間にまで届くことになるわけだ。こんな夜中に使うとご近所迷惑だったりするのだろうが、ここは幸い人里離れた鬱蒼たる山中なので気を使う必要はない。

「皆の者、良く聞け!」

特別大声で叫んだわけではないが、オレのは力強く増幅されて谷間に響いた。

片目の神に貰った宝物を本番で使うのは初めてだが、どうやら無事に力を発揮しているらしい。周囲で上がっていたいくつもの大声は、ぴたりと止んだ。

「お前達の命は当面保証するから、まずオレの話を聞いて落ち着いて欲しい。」

無法者達は、どこかホッとしたような虚脱したような表情でオレを見ている。縋るような視線の者もいれば、泣きそう、というかホントに泣いている奴までいる。なんだか少しだけ気の毒になってきたり。

「うん。君らの想像通り本物の渡り神なんだ、済まない。でもまぁ、決闘を申し込んだのは君らの親玉だしね、欺して悪かったと謝るつもりはない。」

大人しくなった十人かそこらの無法者達は、呆然とオレの言葉に耳を傾けている。とりあえず、恐慌状態からは脱したようだ。あとは、変に舐められないようにすればいいだろう。

「でも、あの爆発を見たとき、君らはきっと言葉では言い表せない『魂の危機』みたいなものを感じてくれたと思う。無法がまかり通る世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思ってあの一撃を放ったんだ。」

ニヤリと笑いながら男達を睥睨する。もちろん演技だけど。

「じゃぁ、大人しく縛について貰おうか。ああん?

無法者達は、見事なまでに全員平伏したのであった。