異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-06-16

「死ぬ、か。」

まぁ、言わんとすることはわからんでもない。

確かに、オレの考え方は甘々かもしれないし、強者生存の野生の掟からすれば傲慢も良いところだろう。

真面目にやれとかベストを尽くせって意味では、確かにホーサの言うことにも一理はあるのだが。

真剣な眼差しでこちらを見上げるホーサの様子に腰が引けながらも、一応思うところは言い返さざるを得ない。

「そうは言うけどなぁ。」

「なに?」

ホーサの身長はオレの胸元までしかないのだが、その身長差に怯んだりせず腰に手を当てて見上げてくる。その視線に気圧されるオレは、まるで猫に威嚇されてビビる大型犬のような気分だ。

「えーとさ。オレは一応曲がりなりにも渡り神なわけだろ。」

「ええ、そうね。」

「それに、一応魔術だって使えるわけで。」

「だから?」

うう、言葉少なに返すホーサさんがなんか迫力あって怖いです。

「それが、神族でもない魔術も使えない人間を相手に、魔術をかましてやりたい放題したら、その、オレの方が乱暴で悪い奴みたいじゃないか?」

「それは違うわ。」

オレの躊躇いというか、アイデンティティの混乱というか、ともかく腰の据わらない心根を看破するように、ホーサは断言した。

「戦士は自分ただ一人のために戦うものではないわ。その後ろに守るべき多くの人を背負って戦うのよ。」

ホーサはそう言って、腰にさげたサーベルの柄頭を軽く拳で叩く。

「だから、勝利するためには全身全霊をもって戦うべきよ。たとえどんなに強い者であっても、油断や慢心は敗北を招く。」

うん。まぁ、ホーサの言わんとするところはもっともなんだ。もっともなんだが、そこにどうしても納得しきれないのは、やはりオレが慢心しているのか。それとも……

「ですが、セタンタ様の仰りよう、私は感動いたしましたわ。」

オレが、どう言葉を返したものか思案していると、横合いから声が響いた。振り向くとそこには、こども達を従えたたおやかな姿があった。夜の空気に気高く響くソプラノは、オイフェ嬢のものだ。

「圧倒的な力をお持ちでも、その力に驕らず同じ視線でお考えになろうとする姿勢。セタンタ様の真摯な姿に、民もみな惹かれることでしょう。」

にっこりとこちらに笑みを向ける様子に、つい口元が綻んでしまう。

まぁ、ニヤけてしまったのは別にオイフェ嬢の言うことが正確だったからではなく、単純にその声音と笑顔が実に気品に満ちたもので美しかったから感心したからなのだけれど。あと、ちょっと買いかぶりすぎで面映ゆいのもある。

それにしてもこのお嬢、仮にも渡り神の会話に堂々と口を差し挟む度胸も大したものだ。

「あなた、誰?」

「あら。名乗りもせず失礼いたしましたわ。私、セタンタ様に助けていただきましたものの一人でオイフェと申します。」

ホーサの誰何の声にゆったりと腰を折ってお辞儀するその所作も、人品卑しからぬ育ちの良さを感じさせる。

「つい差し出がましい真似をしてしまいましたわ。お許し下さいませ。」

「……別にいい。」

一瞬、互いの目を真っ正面から見つめ合った二人だったが、ホーサはこのやりとりで気勢をそがれたのか、ふぅ、と溜め息をつきながら答えた。

セタンタ。とにかくあなたは、『何のために戦うのか』をよく考えた方がいいわ。」

それだけ言うと、この話はこれでおしまいとばかりに肩を竦めて見せた。

……何のために戦うか、ねぇ。

戦うための理由。いや、もっと言えば、この世界で生きてゆくための理由。それが今のオレに一番欠けているものなのかもしれない。

「戦う理由か……」

「そ、その。……慌てずゆっくり考えればいいと思いますよ。」

ボソリと漏らした呟きに、レーが気遣わしげに声を返してくれた。