異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-06-23

「……え?」

呆気にとられた表情を浮かべたホーサは、ちょっと戸惑った声を漏らした。

タム・リンが手放した左手の甲を顔に寄せ、ぼぅっと見入っている。心なしか、その頬が上気しているような気がする。

……おかしいな。何か胸焼けがするみたいだ。今晩はほとんどまともな飯を食ってないはずなのに。

「……なにをするの、あなたは。」

ホーサは口元を尖らせて、少し険しい声でタム・リンに問い返すが、それも何となく照れ隠しに聞こえて。

えーと、これはいわゆる嫉妬でジェラシーでピキピキですか?

そんなワケがない。なにしろ、ホーサとオレの関係は姉弟子と弟弟子というか、家族の中で兄と姉というか。独占欲を働かすような間柄ではないのだから。

「常日頃ホーサ様のご高名を耳にしておりまして、是非ともお目通りしたいと念願しておりました。この挨拶は私の私淑を表すものです。お気に障ったのでしたら何卒お許し下さい。」

畏まって答えながらも、余裕タップリの態度を崩さない妖精騎士ホーサの方も、ストレートに好意を伝えられて嫌がるわけもなく、困惑の表情を浮かべながらもやはりどこか嬉しいのだろう。照れた感じで視線をこちらに向けてくる。

うん、やっぱりこれは微妙にムカツク風景だ。特に理由はないけど、とにかくなんかムカツク。

こちらにチラチラと視線を送ってくるホーサにも、その前に跪くタム・リンにも何か言ってやろうと、衝動的に口を開いた瞬間。

「……ふぁ、ふぁああああああ~~~ぅふ。」

オレの口から漏れたのは抗議の声でも話の腰を折る茶々でもなく、あくびが一つであった。それも、これ以上ないってくらいの大欠伸。

「……あー、ごめん。」

とてつもなく気まずい空気に、オレの謝罪の声が空しく響く。

「……セタンタ様。それはあまりに……」

レーの呆れたようなつぶやき。

セタンタ。行儀が悪い。」

むっとして少し目の据わったホーサ

「……別に構いませんが。」

肩を竦めながらも、これまたちょっと気分を害した様子のタム・リン。

いや、確かに雰囲気壊して悪かったけど。それにしたってオレがそんなに悪いか?

つーかマジ眠いんだよ。何か知らんけど。

「あー、その。なんだか急に眠くなってな。ま、オレのことは気にしないで歓談を続けてくれ。……ふぁ。」

欠伸混じりに返すと、ホーサからの視線がさらに厳しくなったような。

ううう。カンベンしてくれよう。

セタンタ様、お疲れになったのではありませんか。」

そこへ、オイフェ嬢がいいタイミングで声をかけてくれた。その声に、耳元でレーがあっと息を飲んだ。

「どした、レー?」

「……あの、セタンタ様に急に眠気が出たのは、きっと魔術を何度も使われたからかと。魔術を覚え立ての術者は慣れるまで、密素を使いすぎてしまうことがあるのです。密素を使いすぎると、疲れが出たり体調を崩すこともあります。」

「あー、んじゃこの眠気は。」

「慣れない魔術を続けて使ったせいかと。昨日も村の火を消しておられましたし。その、気付かなくて申し訳ありません……」

「気にすんなよ。オレも魔法使いすぎると疲れるってのは覚えておくわ。」

済まなそうに言うレーにそう返す。戦ってる最中に分かるよりずっといいしな。

「皆様もお疲れでしょう。交代で見張りを立てながらお休みになっては如何でしょうか。」

「それもそうですな。あと数刻で夜も明けますし、順番に休みましょう。後続も夜明けには到着するでしょうしな。」

オイフェさんの言葉を受けて、マウルさんが同意する。確かに、オレもちょっと眠気が限界だ。

「まずは私が見張りをしますので、セタンタ様はお休み下さい。」

「済みませんが、お言葉に甘えてちょっと一休みさせて貰います。交代しますから後で起こしてください。」

そそくさと手近な樹の根本に座って膝を抱える。

目を閉じる前にちょっとだけホーサの方を見ると、どうやらこちらを少し心配げに窺っているようだった。タム・リンも、マウルさんに言われて人質の見張りに回るようだ。

欠伸一つであの場を混ぜっ返せるなら、上出来かもしれない。頭の中でそう考えてから、自分の根性の悪さに苦笑してしまった。

どうやら、ホーサとタム・リンが一緒にいる情景というのは、オレ的にあまり穏やかに見ていられないものらしい。