異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-09-22

乾杯が済むと、直ぐに料理が運ばれてきた。

まず、メインディッシュと思しき料理が、男性二人がかりで支えられて入ってくる。差し渡し3フィート近くもありそうな巨大な鈍い銀色の皿に、あれは牛だろうか、立派な肉の塊が載せられて、ハーブと塩と肉汁の焦げた芳ばしい匂いを漂わせている。食欲をそそるその馥郁たる匂いに、我知らず口の中につばがわき上がってくる。

それに続いて、一様なお仕着せを来た女中さん達がズラズラと入ってくる。手押し台の上には、大皿に盛られた色とりどりの料理が所狭しと並んでいる。

出席者を超える人数の男女が、礼を失しない程度に手早く料理をテーブルに配膳していく。ちなみに、テーブルはUの字になった席の内側、俺たちの手が届かない場所に整然と並べられている。女中さん達がその料理の横に立っているところを見ると、頼めば手元に取ってくれるのだろうけど、気分的にはちょっとお預けされてる気分。

ずらりと並んだ豪華なご馳走を前に、皆の喉が一斉に音を立てる。

ああ、こんだけうまそうなのに、きっとえらい人の挨拶とかなんとかで待たされるんだろうな。

目の前には、陶器のボウルに入ったスープとなにやら漬け物っぽい野菜の載った皿は出ていたけれど、それ以外にメシらしいものは並んでいない。皆、乾杯の後はフォークでそのキャベツのように見える小皿の中身を摘んでいる。

乾杯後のざわめきが収まり、皆が空腹を耐える心づもりを決めた辺りで、コノーアさんが立ち上がって口を開いた。

「本来であれば、私やエリン族の者達からお弟子様方に改めてご挨拶を差し上げ、お弟子様方ご一行からお言葉を頂戴して、それからいよいよ夕食というのが正しい段取りです。」

その台詞に苦笑や微かな溜め息が返ってくる。皆、とりあえず食事を食わせろと思っているのが丸わかりだ。

「しかしながら、これ以上食事を先送りすると皆に恨まれそうですし、何より私もそろそろ待ちきれませんので。紹介やご挨拶は食事が落ち着いてからにしたいと思いますが……。」

そういって、コノーアさんはこちらに視線を向ける。

「いかがでしょうか、セタンタ様、ホーサ様。」

「別に構いません。つーか、是非メシを先にして下さい。な、ホーサ?」

苦笑しながら右手のホーサに聞くと、やはりお腹がすいていたのか、ホーサも直ぐに二度頷いた。

「では、早速食事を。ミゲレ。」

コノーアさんの指示がでると、周囲にほっとしたような空気が流れた。料理長なのか、料理人達の中で一番恰幅の良い人物が、巨大な肉の塊を手早く切り分けると、白い皿にどんどんと盛りつけていく。肉以外にも様々な料理を載せた皿が直ぐに用意され、まず最初にオレとホーサのところへ配膳された。料理人や女中さん達も、実に手早くキビキビと客に料理を届けている。せっかく作った料理を暖かいうちに食べて貰いたいのだろうか、それとも失礼がないように気合いが入っているのか。いずれにしろ実に手際がいい。

「僭越ながら、私が食事の祈りを代表して。」

コノーアさんの横で、デヒテラさんが口を開く。何をするんだろうと見ていると、両手を組んで目を閉じる。オレ達一行を除く、フィオナを含めた全員が同じような仕草で組んだ両手を顔の前に掲げた。どうやら祈りの姿勢に見えるが。

「オレもした方が良い?」

「いえ、私たちはいいの。」

小声で聞くと、ホーサが軽く微笑んで首を振った。

「我らが始祖たるアローンの神様。我らが主たる女神様。この糧を与えていただきましてありがとうございます。我ら心より感謝申し上げます。」

デヒテラさんの敬虔な祈りの言葉を、その場のエリン族全員が思い思いの声音で復唱する。それは、どこか厳かで、どこかほっとする光景だった。

「じゃ、オレも。」

自然とわき上がってきた口元の笑みに、左右合わせた掌を近づける。

「いただきます。」

食事に向かって軽く頭を下げるオレを、皆が不思議なものを見る表情で、でもどこか柔らかい表情で眺めていた。