異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-10-27

たき火を囲むオレ達一行の顔ぶれは、見慣れたまさにいつもの面子である。

右手にホーサケルベロス、左手にフィオナシグルーン、そして、ベレヌス、ロイグ、ペリグの男3人。オレを入れてこの8人がエリンの、イヤ正確にはアルスターの全軍となるわけだ。しかし、いくら『脚萎えの呪い』がエリンの男達を縛ってるとはいっても、この顔ぶれは苦笑せずにいられない。

渡り神であるオレ達は、確かに呪いを受けない。そして、スカアハが動けない以上オレ達が矢面に立つのは仕方ないだろう。そして、フィオナエリン族ではあるが女であり、スカアハの力で呪いを免れている。ロイグもペリグも、島の人間ではない故に呪いの条件から外れる。要するに、メイヴの思惑を逃れ得た貴重な戦力がこの八人というわけだ。

それでも、13歳や14歳の少女の力を宛てにしなければならない状況には忸怩たるモノがある。

まぁ、オレ達男4人でコッソリ出かけようとしたところを、目敏いお嬢さん方に無理矢理同行されてしまったわけで、本人達の意志ではあるのだけれど。でも、それを言い訳にして、この子達を傷つけることを許したりしてはならない。たとえオレ達男4人が死ぬような目になったとしても、彼女らを、そしてアルスターの女達を守らなくてはならない。

そんな風に、少し思い詰め気味で沈黙していたら、突然顔の横からぬっと何かが突き出す。それは、長い鼻面の先から生暖かい鼻息を吹きかけると、口から長い舌を出してオレの頬から首筋までべろりと舐め上げた。

「うひゃあっ!……な、何すんだマッハ!」

オレの抗議の声を嘲笑うかのように、この地獄産まれの悪魔の馬は一声いなないた。そのまま、オレからは興味が失せたかのように、ホーサの耳元へ顔を寄せる。今度は甘えるように鼻を鳴らしてそっと鼻面を寄せる。

「どうしたの?……そう、心配いらないっていうのね。」

クスクスと笑いならがその顔を撫でてやるホーサに、マッハは上機嫌で耳を伏せている。

どうやら、オレの緊張をほぐしてくれたらしいが、おかげで胸元まで草臭い涎だらけだ。

「なぁ、みんな。」

苦笑しながら手ぬぐいで顔を拭きつつ、食後のゆったりとした時間を過ごす一同に声を掛ける。ここにいる8人、マッハやノゾミのような人ならざるもの。あるいは留守を守るリャナン・シーさんや、夜の闇とともにコノート軍の行方を静かに阻む妖精の女王達、そしてメイヴの動向を静かに知らせてくれるレー。オレ達の行動を陰から支えてくれるネース以下の巫女達。皆の力がなければ、この苦境を乗り越えることは出来ないだろう。

「オレ達は、2万のコノート・マンスター・レンスター連合軍と8人で戦うわけだ。」

そう言って、全員の顔を見回す。

いつも、微苦笑を浮かべながらも付き合ってくれるベレヌス。逆に、ニヤニヤと笑いながら苦境に飛び込むロイグと、恐怖を哄笑で乗り越えるペリグ。皆が並の赤枝の騎士を凌ぐ手練れであることは疑うべくもない。彼らは、安心してオレの背中を任せられるだけの男達だ。

そして、オレを叱咤してくれるフィオナ、オレをいつも支えてくれるホーサ。二人とも、娘としての華やかさと淑女としての成熟とを兼ね備え始めている。そして、13になったシグルーンと、14になったケルベロスは、もう一人前の娘と言っても十分に通る。二人ともに個性的な女性らしさと戦士のたくましさを身につけつつある。彼女らの力量が、並の戦士をどれだけ集めても敵わないものであることは、共に研鑽した俺自身が良く知っている。

絶望的な発言にもかかわらず、彼らは笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「今さら何を言うんだ。そのくらいの事、皆知った上でここにいるのだ。ここへ来て覚悟が揺らいだりするものか。」

「それもそうだな。」

フィオナの揶揄するような口調に、苦笑を返す。たしかに、一般的に言えば決して比較の対象になる数字ではないが、圧倒的な数が必ずしも勝利の確定を意味するわけではない。やってみなければ分からないのだ。いや、2万対8をひっくり返す方策は、確かにある。

「みんなの命、オレに預けてくれ。高慢ちきなメイヴに、オレ達を敵に回すとどれだけ怖いか思い知らせてやる。」

頷き返す仲間達に、右腕を突き出す。皆、オレの拳に右手を重ね、もう一度真剣な眼差しで首肯した。

「そして、スカアハを救……」


セタンタ様、朝ですわ。」

肩を揺さぶられて、なにやら現実感のない夢想から醒めた。だが、目の前のフィオナの顔が、夢の中のそれよりも幾分幼く見えて、ぼうっとした思考のまま疑問を口に乗せた。

「よう、フィオナ。……若返ったか?」

「……頭は大丈夫か?」

フィオナは、痛ましい表情でオレの頭を撫で探った。昨日のたんこぶを捜しているのだろうか。残念ながら、アレはもう直ったのでほとんど分からない。