異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-10-28

フィオナに揺り起こされて、オレはまだ現実感が伴わないまま起き出した。大きく開かれた窓から差し込む光は、既に天を駆け上がり始めた太陽の輝きを受けて、夏のぎらつく日射しで室温を刻々と上げつつあるようだ。

頭を二三度振ると、さっきまで鮮明だった夢の光景は急速に朧気になっていく。

まずい、と思ってすぐに反芻と記憶のプレイバックを始めるモノの、時既に遅し。

フィオナホーサケルベロスシグルーン、それと、ベレヌス、ロイグ、……あとはヒゲのペリグか。」

何とか夢に出てきた面子の名前は指を折りつつ思い出せたが、そこまで。あとの状況などは、風の前の霞のように散ってしまった。

「どうした、セタンタ。本当に大丈夫か?」

心配そうに覗き込むフィオナに苦笑を返す。どうも、肝心の詳しいシチュエーションが思い出せない。とにかく、何か敵と戦うのに出陣とかそんな感じ。

「とりあえず、水でも飲め。」

差し出されたマグの中身を飲み干す。微かな苦みがあるが、冷えて旨い水だ。喉越しと共に、なぜか「2万対8」というフレーズが甦ってきて、そのまま夢の中身はほとんど思い出せなくなってしまった。

「目が覚めたか。」

「ああ。」

とりあえず、今度こそスカアハに相談してみよう。なんか、脈絡のない夢と切って捨てるには臨場感がありすぎだったし。


女中というか侍女というかメイドというか、より正確には女官なのかもしれないが、とにかくフィオナの指揮する若い女性の集団に朝からとり囲まれる。要領が分からずボヤボヤしているうちに、手早く着ている衣服を剥がされ、さらに手際よく服を着せられてしまった。もちろん、昨日に引き続き下着まであっという間に替えられてしまった。

……朝は出来れば自分で着替えたいんだけどなぁ。人の腰の下を凝視して顔を赤らめるお嬢さんを見て、正直そう思った。

着せられたのは、綿の袖無し胴着と麻のズボン。昨日と同じ幅広のベルトと小手・脛当て。そして絹らしきサッシュ風の飾り帯を腰に巻かれ、革の丈が短いチョッキも着せられた。

全体に淡い藍色に染め抜かれ、細かな細工を施されたその衣服は、やはり誂えたようにオレの体にフィットした。最後に、やはり薄青に染められた鍔広帽を被ると、お出かけ準備は完了である。

「ありがとう。着替えまで手を煩わせて済まないね。」

一応礼を述べると、

セタンタ様の身の回りのお世話を仰せつかるだけでも光栄でございます。」

などと、上気した表情で言われてしまったりする。ちょっとでも嫌がってくれれば、自分で着替えるように切り替えられるのに。などという思惑は儚くも無駄に終わった。

「お着替えが終わりましたら、朝食をご用意しております。」

澄まし顔のフィオナに誘われて部屋を出る。ちなみに、貴重品はやはり肌身離さず身近においておきたいので、短剣とサンダルはちゃんと身につけた。もちろん杖も持って出ようとするが、

「それはその、長すぎないでしょうか?」

と止められてしまう。まぁ、屋外で持ち歩くならともかく、屋内で常時持って歩くには、確かにちょっと長すぎではあるんだが。さりとて、ノゾミ君は腕輪に擬態して持ち歩けるからいいとしても、貴重品の杖を放置しておくってのもちょっと心配ではある。

「縮んでくれりゃ楽なんだがなぁ……」

孫悟空の如意棒みたいにな。天井にも閊えてしまうほどの長大な手元の槍を眺めて、それがスルスルと程よい長さに収斂する様を想像する。すると、当の槍から予期せぬ応えがあった。

『デキルヨ!』

「マジで?」

オレの疑念というか確認に、再び肯定の答えが返ってくる。そして、命令を期待するワクテカした思念がそれに続く。

「んー、えーと。『縮まれ、我が相棒よ。』」

半信半疑で命令を下すと、目の前で微光を発した聖木の杖はみるみる間に短くなってゆき、僅か4フィートほど(120cm)程までその長さを減じてしまった。

『モットミジカク?』

「いや、これで十分だよ。ありがとな。」

嬉しげな気配が伝わってくるのに、思わず顔を綻ばせる。そして、やっと周囲の空気に気がついた。6人の侍女たち、そしてフィオナまでが目の前で起こった現象に、目を見開き硬直していた。