異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-11-03

「その槍は伸び縮みする魔法の槍だったのか。」

口調が素に戻っているフィオナ。その視線は、オレの腰の辺りまでに縮んでしまった槍……今の状態だと杖か、木剣とでも言った方が良いだろうか、とにかくトネリコの杖に吸い寄せられている。興味津々の視線というか、あるいは貪欲な物欲しげな視線というか。とにかく、全身から『羨ましいっ』という気配を滲ませている。

「いや、オレも今知ったんだ。……出て来な、ノゾミ君。」

そう答えて、手元の杖を見やる。オレの手つきに合わせて、杖の先から光の蛇がにょろーんと顔を出した。

「ナニ?」

昨日、山羊飼いの少年に見せびらかして怒られたので、ノゾミ君にはオレがOKしない限り杖の中で大人しくしているか、腕輪に擬態しているように命じておいた。そういう状態だと、オレと思念で会話は出来るが、他の人間に聞こえるように実際に声を出す事はできない。だが、外に出してやれば拙いながらもきちんと音で会話が出来る。

フィオナに見せるのは初めてだったな。これが、オレと契約した光霊のノゾミ君。」

挨拶するように促すと、ノゾミ君は杖からするりと抜け出して、空中に円を描いてゆったりと飛んで見せた。よく見ると、背中の小さな羽根を一応羽ばたかせているようだ。

「ボク、ノゾミ。セタンタノ、シモベ。ヒカリノヘビ。」

言葉足らずではあるが、見た目が十分雄弁なので必要最低限の自己紹介にはなっているだろう。

「ま、そんなわけでオレの精霊だ。オレと一緒でまだまだ駆け出しだけど、よろしくしてやってくれ。」

苦笑しながら言うと、呆然としていたフィオナはごくりとつばを飲み込むと、辛うじて首を縦に振った。

「ああ、私はフィオナ・マッコールセタンタの同門で、兄妹のようなものだ。よろしく。」

なにやら、珍しくぎこちない態度を取るその様子にニヤニヤしていると、

「実を言うと。精霊と話をするなんて初めてなんだ。」

と、僅かに赤面してそっぽを向いた。フィオナ曰く、あちこちへ出かけ見聞を広めたが、残念ながら精霊と言葉を交わす機会はこれまで無かったそうだ。それに、先日ヌァザさんのカラドボルグを見るまで、一度も光霊を目にすることもなかったという。

まぁ、考えてみれば魔術の大家であるスカアハの周辺にいてさえ、魔術的なものに出くわす機会は意外な事にそれほど多くない。まぁ、妖精とか巨人とかは魔法的じゃないのかと言われると困ってしまうし、日常の中に全く魔法的なものが無いかと言われればそうではないが、同時に、周囲に魔法が満ち満ちているかというとそんなこともない。オレの感覚からすれば、この世界は9割方普通の中世っぽい世界なのだ。

そう考えてみれば、見聞の広そうなフィオナといえども、精霊と話す機会などなかなか無いだろう。

「まぁ、そんなわけで。この杖はスカアハから貰った、何とかって名前の木の枝でね。ノゾミ君の住処として使ってるんだ。」

ノゾミ君を召喚したときの話を、かいつまんで説明すると、フィオナは興味深げに杖と、暢気に周囲をのたくっている光の蛇を眺めた。

「そうか。なるほど、伸縮できるのは光霊の力か。」

なにやら悔しそうなフィオナ。実に物欲しそうに覗き込むその様子が、なんだか居心地悪いよな不憫なような。

「えーと、光霊はさすがに素質がないと使えないんだっけ?」

光霊、というよりは精霊全般だな。」

一応確認してみると、お嬢様姿の女騎士は盛大に嘆息を漏らした。

「私は、本当に魔術の才能が無くてな。精霊どころか、ほとんどの魔術を覚えることが出来なかったんだ。」

「そういえば前にスカアハが、フィオナは対魔術の方法を学べとかいってたな。」

「そうだな。私は結局、古い呪いしか使えなかったんだ。」

だから、そういう魔術的な力を持った武器があれば、いいなぁと思っていたんだ。フィオナはちょっと、どころではなくかなり強烈な羨望の様子を見せていた。

結局、

「その杖はどのくらい短くなるんだ。」

「逆にもっと伸ばせるのか。」

「曲げたり、鞭のように撓らせたりは出来ないか。」

「穂先に刃を出せないのか。」

「穂先を枝分かれさせることは出来ないか。」

などと質問するフィオナに合わせて、ノゾミ君に色々試して貰うことに。そして、芥子粒ほどの大きさになり、窓からどーんと飛び出すほどの長さになりと、要望を全部嬉々として実現してしまうノゾミ君にも畏れ入った。

最後にはフィオナから、かなり真剣に

「その槍と光霊、譲ってくれ。……ダメだよな。やっぱり。」

とか上目遣いで頼まれてしまった。いや、もし譲ってやっても君には使えないでしょうが。

「あの、光霊にあまりいろいろやらせると、魔素を使ってしまいますし。セタンタ様が疲れてしまいます。」

おずおずとレーに突っ込まれて、漸くノゾミ君の能力テストはお開きになった。