異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-11-17

「そんで、扱う荷物は何が多いんです?」

灯台へ案内するという税務局一行の後を追いながら、オレとテオドロ長官は会話を続けた。というか、オレが一方的に情報を仕入れようと問いかけるのをやめないのだが。

影の島から出荷する産物は様々在りますが、最も多いのは毛糸や毛織物ですね。島内で取れた羊毛だけでなく、島外からも羊毛を持ち込んで毛織物に加工したりもしています。」

岬の砦に繋がる道は、港内の外れから伸びている、石畳で舗装された小径だった。轍を切ってあることから、大きな荷物を馬車や荷車で運び上げることも出来るのだろう。とは言え片道僅かに1000フィート(約300m)ほどなので歩いて上ってゆく。

「それ以外ですと、綿糸や綿織物などの繊維製品類がおおいですな。他に金属ですと、青銅や真鍮や鉛の延べ板ですとか器、あるいは銀貨のような金属製品も出荷しています。逆に、鉄や金は島外から持ってくる物がほとんどです。」

途中からすこし急勾配の坂道にさしかかるが、オレは長官の説明に相槌を打ちながら足を進める。

「それと、時期によりますが芋類を島外に出荷することも多いです。馬鈴薯や甘藷などの収穫期には、種芋や食用として船積みすることが次第に増えてきました。逆に、麦類などは取れ高に応じて島外から運び入れることもあります。」

なんでも聞いてみる限りでは、芋類はここ50年くらいで食用として普及し始めたのだそうな。特に馬鈴薯、つまりジャガイモは影の島において、麦類を補う、あるいはそれに取って代わる食物として次第に大きな地位を占めつつある。連作障害があるのであまり同じ場所で作り続けることは出来ないが、麦作と交互に、あるいは牧草地をまぜたローテーションで作付けをすることも珍しくなくなってきている。食用油を採るための向日葵、食用や飼料に使う唐黍とあわせて、いずれも海の向こうからスカアハが導入した物だという。

「女神様は、葡萄の地との交易に大変熱心でして。大船を作らせたのも、トリムをはじめとした島内の港を整備されたのも、海の向こうとの航路を確保するためだとか。馬鈴薯も甘藷も、向日葵も唐黍も、女神様が我らにもたらして下さったのです。」

おかげで、多くの村が飢饉に苦しむことが無くなった、初老の長官は何か思い出すようにそう言った。

以前から、スカアハがオレと同じ世界出身、それも割と近代の人じゃないかと思っていたが、アメリカ大陸原産の作物を探し出してもってくる辺りは、やはりアメリカ発見以降の人なんだろう、そういう思いが強くなる。

それと同時に、スカアハがこの島の社会にどれだけ大きな変革をもたらしてきたか、段々肌で感じられるようになってきた。身近にいても分からないのに、外に出て初めて知るのは奇妙でもあり、当たり前の話でもある。物事には少し外側から眺めないと分からないこともある、ということもあるが、やはりまだこの島には理解すべき事がいっぱい残っているということだろう。

それはともかく、産物の話を聞く限り、影の島は意外なことに、食品や衣類など島内で消費する産品以外にも、輸出用の製品を多くもっているらしい。ちなみに、織物や染め物の技術を教えて産業を育てたのもスカアハ、そしてその施策を受け持った前代の大族長であるフィン・マッコールなのだという。

この港の盛況ぶりは、そういった産業の振興に向けられた努力の積み重ねによってもたらされているのだろう。

スカアハの動機とか本質的な目的なんかはちょっと想像が付かないが、結果的には島の人々の生活を豊かにし、社会全体の発展に寄与していることは間違いない。

くそう、なんかこう、格好いいというか羨ましいぞ。

自分の師匠で、なおかつ数百年前から居る人に羨望やら嫉妬を覚えるというのも、誠にもって身の程知らずな話ではあるが。やはり男として産まれたからには、そんな大きな仕事を成し遂げたいと思ってしまう。

そんなことを考えているうちに、砦までの坂道を登り切ってしまったようだ。城壁へと繋がる階段を登り上がると、胸壁の隙間から海が覗いた。薄い水色の海面に、小さな白い波頭がいくつも見える。少し覗き込むと、足下の方から規則正しい水しぶきの音が聞こえてきた。岬の足下に寄せる波が砕けてその轟きをあげているらしい。