異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-12-02

市議会場は間近で見ると実に巨大だった。噴水の前に立って頭上を仰ぐと、空の半分くらいが建物に覆われているような錯覚に陥る。城山の天辺だとか場内や城壁の尖塔、あるいはさっき見てきたトリムの海砦に比べれば低いのは間違いないのだが、それでも市街地の中心部にこれだけ壮大な建物があるのはちょっとした見物である。

「高いなぁ。」

思わず、その天辺に置かれている彫像を見る。どうやら、鴉を象ったものらしいが、その頭上には金色の宝冠らしきものが輝いている。

「天蓋頂上の像は140フィートの高さに置かれております。像は約10フィートの大きさになります。」

その特徴的なドームを見上げていると、横から落ち着いた女性の声で解説が聞こえてきた。視線を向けると、そこには昨夜と変わらず質素な装いに身を包んだタラ巫女長、ネースさんがニコニコと微笑んで佇んでいた。その横には、市長のアイマルさんと、カスパルの兄であるメルキオさんも控えていた。

「市議会場の案内はこちらのお三方にお願いしておりまして。」

「ああ、昨夜はどうも。」

オレが挨拶すると、三人とも儀礼的な笑みと会釈を返してきた。儀礼的といっても、余所余所しいというわけではなく、要するに人目を意識した態度というべきだろうか。オレ達が到着すると同時に、周囲の市場から次第に見物人が集まり人垣を作り始めていたので、その視線を憚ってのことだろう。

セタンタ様、神殿を代表しましてご挨拶差し上げます。巫女長のネースにございます。」

「同じく、タラ市議会を代表しまして、市長のアイマルであります。本日はようこそ市議会場へ。」

「私は参事会を代表しましてご挨拶いたします。今月の当番参事で、メルキオ・マクアノールであります。」

三人三様で丁寧な挨拶をしてくれた。ちらりとフィオナの方を見ると、ホーサの方へ目配せをしているところだった。そして、こちらにもちらりと視線を向ける。どうやら、ホーサを見習えと言うことだろうか。

スカアハ様の弟子にして、馬を司る女神エポナの娘、ホーサです。今日はよろしくお願いしますね。」

ホーサがはにかみながらにこやかに挨拶すると、周囲からなぜか溜め息が漏れた。

「同じく、スカアハの弟子でセタンタだ。よろしく頼むよ。」

同じくオレがにこやかに挨拶すると、周囲から上がった声はなぜか、おおーというどよめきだった。それってどんな反応よ。

「この市議会場は、通称『タラの丘』、あるいは『首府の丘』と呼ばれております。これは、もともとこの場所に丘がございまして。この島に最初に来た渡り神が居を構えたのがこの場所だったといわれております。スカアハ様もその故事に倣い、ここを首府の中央と定められ、この市議会場を建立なさったのです。」

声量はそれほどでもないが不思議と良く通る声で、ネースさんは話し始めた。どうやらオレやホーサに聞かせるため、というよりは明らかに周囲の聴衆に聞かせるように意識しているようだ。

「女神様はこの丘で、自由を説き、法を説き、国を説かれました。我らエリンの民は、女神様の教えとその歩みに学び、よりよい生き方を捜さなくてはいけません。女神様に祈りましょう。」

ネースさんがすこし簡単な説法のように話すと、周囲の群衆から一斉に歓声が上がった。

「女神様に!」

「女神様の黒い羽根に!」

などと口々に陽気な声を上げ、所々で乾杯の声が続いた。

「女神様の牙に!」

「牙はないだろ!」

ところどころでは、こんな掛け合いと笑い声も上がっていた。

「では、中をご案内いたします。参りましょう。」

くすくすと笑いながら誘うネースさんたちについて階段を登る。下の方からは、賑やかな市場のかけ声と一緒に、酒杯を掲げて笑い交わす声も聞こえていた。

「なあフィオナ。説法だとか祈りって、いつもあんな感じなのか?」

どうも面食らってしまって聞いてみると、

「ええ。真摯な祈りも大事ですが、なにより楽しくなければ皆話を聞きませんから。」

というちょっと意外な答えが返ってきた。

まぁ、顰めっ面でみんなで集まってるよりは威勢良く楽しくやった方がいい、という意見には賛成するが。何となく不謹慎とまでは言わないが、風情が足りない気もする。