異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-12-16

「まぁ、みんながスカアハを尊敬というか崇拝する理由はよーく分かった。つーかよくもまあ、そんだけやることが残ってたもんだな。それまでのエリン族ってどんな生活してたのさ。」

「私が産まれた頃には、今ほどではないのですが随分と生活も良くなっておりまして、祖父からの口伝えでしか知らないのですが。」

オレが呆れ混じりに尋ねると、市長のアイマル氏が少し困った顔で答える。

どうやら、スカアハが来るまでのエリン族は、有り体に言って田舎の野蛮人に過ぎなかったようである。

洞窟よりましとはいえ泥を塗り固めた家に住み、毛皮と麻の衣服に身を包み、麦を細々と育て、豚を森で放し飼いにし、狩猟と農業と漁で生活を営む。

部族単位で群居し、獲物が減れば移動し、時に互いの生活圏をかけて争う。

大陸の民からは蛮族として扱われ、まともな人間として見られなかった時代が長く続いたのだという。

「我らエリンの民は、その大本はコリンの民であり、つまりは大神アローンに連なるのですが。しかし、長い時の中で大神の正当な血筋をもつ王族も失われ、民族としてのまとまりも無くしてしまったのです。」

神から続く血統が失われると民族としてのアイデンティティも無くしてしまう、ということなんだろうか。この辺りの感覚は、正直オレにはあんまり理解できないのだが、アイマル氏の語り口を聞くに、その時代を直接知らない彼のような人物でも、非常に切ない思いを共感できるものらしい。まぁ、そういう感覚をこの世界の人間は抱いているものなのだ、というのは理解しておいた方がいいだろうな。

「そしてある日、一人の若者が旅立つことにしました。神無き民のために、新たな神を捜してきて主になって貰おうというのです。彼はコール氏族の若者で、フィンといいました。彼は海を越えて……」

「そのフィン青年が、大冒険の末に『永遠の黄昏の国』で一人の女神と出会い、懇請を重ねて影の島へと同行して貰うことになるのですが。それは今置いときます。」

蕩々と語り始めたアイマル市長に、カスパルがすっと割り込んだ。アイマル氏は一瞬ものすごく不満そうな顔をしたが、周囲を見回して、すぐに苦笑して顔をつるりと撫でた。

フィン・マッコール一代記は、また今度、是非聞かせて下さいよ。」

オレが笑っていうと、市長はどうやら機嫌を直してくれたようで、髪の薄い頭を掻きながら何度も頷いた。

実際、フィン爺さんがスカアハを口説き落としてこの島へ連れてきたって下りは、正直ものすごく気になる。全然そんな雰囲気無かったけど、もしかしてあの二人男女の仲だったりするんだろうか。

……なんか、胸がモヤモヤするな。

「ともあれ、ですね。」

カスパルは、話を本題に戻した。すまんね、話を脱線させて。

「女神様は、50年の約束で国を築く基礎造りを終えられると、大族長職からの引退を宣言されました。後継者は、全ての民から選挙で選ぶようにとお決めになりました。」

その選挙の仕組みや、立法司法の仕組みが、先ほど聞いた『大族長』『国政議会』『大法廷』という仕組みのようだ。イメージ的には、オレの世界でいう『大統領または首相』『国会』『最高裁判所』に相当するのだろう。

「もっと長く女神様の統治をお願いしたい、そういう声はありましたが、実際には女神様の目となり手足となった英雄、フィン・マッコールが後継者であることはほぼ決まっていました。女神様は、コノートを除く島の大君主として在位することになっていましたが、大族長はフィン様に代わりました。エリン族だけではなく、妖精族巨人族小人族、全ての諸族を率いる本当の意味での大族長です。」

つまり、権力の委譲は上手く行った、と。

「その後、10年後の大族長選挙で、事件が起こりました。」

「え?聞いてる限りじゃ、フィン・マッコール政権に死角なんか無さそうだけど。」

ええ、実際内側には問題なしでした。そう言葉を置いて、カスパルは続ける。

「コノートのメイヴ、彼女自身は渡り神の娘なのですが、スカアハ様を真似て影の女神にして女王と名乗るようになっていました。とにかく、メイヴがこう言い出したのです。スカアハ様が退かれた以上、この島にいる神族は自分だけ、大族長に相応しいのは自分だと。」