異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-12-21

「メイヴ……」

なにやら聞き覚えのある名前に首を傾げる。たしか、このところちらほら聞いた名前のはずだ。

「えーと、島の北西にあるコノートとかいうところの女王でいいんだっけか?」

「コノートのアホどもは、まだあのアバズレを女神と戴いているようですな。」

オレの言葉に、思いがけず激しい語気で答えたのは、これまで黙って話を聞いていたロイグだった。

その目元は険しく、口元を食いしばっているのか喉元の筋が盛り上がっている。

「メイヴと何かあったのか?」

何かあったなんてもんじゃ無さそうなのは聞くまでもないが、こういう場面でスルーするのも人としてどうかと思うしな。

「マンクスの族長イネガン、これは私の父親ですが。若き海の獅子イネガン・オルマンが英傑フィン・マッコールによって征伐され、エリンの女神に服属するきっかけになった事件がありまして。」

あまり時間もないので掻い摘んで話します。そう言葉を挟んでロイグは続けた。

「あるとき、フィン・マッコールの妹を掠った者がいましてね。こいつは、その妹を奴隷としてイネガンに売り払いました。イネガンはその娘に惚れて妾妻にしました。ですが、掠われた妹の行方を知ったフィン・マッコールは怒り、マンクスへと攻め込んできました。そして、イネガンが敗れたことは既に話したとおりです。」

「この、イネガンにフィン・マッコールの妹・マァガを売った者こそ、メイヴの右腕であるカラティン兄弟でした。全部、メイヴの仕掛けた手だったんですよ。」

掻い摘んで話すとあっさりしているが、どうやらここにも随分色々な逸話があるらしい。アイマルさんが、何度か口を挟もうとしていたのを見るに、きっと定番の物語なのではあるまいか。

ロイグの説明をカスパルが継いで続ける。

「マンクスとエリンが争っている間に、メイヴはその手勢を駆ってマンスターへ攻め込みました。統一の取れていなかったエリン族は、各地でメイヴの軍勢に敗れます。なにしろ、敵の総大将は女神にして女王なのに、此方は女神様が引退されている上に大族長は妹の救出に軍勢を狩り出して不在。勝つどころかまとまって対峙することすら不可能でして、面白いように負けました。さらに言えば、メイヴと島の妖精族は古くからの付き合いがあり、多くの妖精たちはメイヴに手を貸すか中立を守りました。」

「ほうほう。」

身を乗り出して相槌を打つ。ちらりと横を見ると、ホーサも同じように話に聞き入っていた。

「これらの動きは、メイヴによって周到に準備されてきたものでした。メイヴは、表向きスカアハ様の動きには関心がない振りを続けていたのですが、エリン族の繁栄を横目に、それを如何に奪うかを目論んでいたのですな。おそらく、スカアハ様が女王にして大族長として全ての実権を握っている間は勝ち目がないと判断したのでしょう。ですが、いかに『神招き』の勇士と言えどもフィン・マッコールは人に過ぎません。メイヴもフィン様になら勝てると踏んだのでしょう。」

「で、どうなったんだ。」

オレが先を促すと兄貴はニヤリと笑った。

「そこで、大族長フィンは素早くイネガンと和睦し、妹との結婚を認める代わりに助力を求めました。さらに、タラにとって返すやアルスター・レンスター中を説いて回り、選りすぐりの12人の勇士と軍団を率いてコノート軍に戦いを挑みました。一時の勝利に気の緩んでいたコノートの軍は、予想よりもはるかに速いエリン軍の襲撃に対応できず、当初の勢いを失いました。」

簡単に説明してはいるが、きっとカスパルの頭にはもっと詳しい情報が入っているに違いない。目を輝かせて語るその様子は、とてもいつもの昼行灯のような雰囲気からは想像できない。

「とどめは、スカアハ様の出陣でした。大族長から退いたとは言え、知勇武において並ぶ者無しと言われた女神であるスカアハ様が出てくれば、メイヴにも勝ち目はありません。『仇し野の戦い』に敗れたメイヴはマンスター軍を見捨ててコノートへ逃げ帰りました。メイヴは渋々ながら、コノートを除く島の支配権がスカアハ様にあること、大族長の地位についての要求を引き下げることを認めました。」

ですが、問題はこれでも残ったわけですよ。カスパルは苦笑しながらなおも続けた。