異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2007-12-22

「第一の問題は、メイヴにしろ妖精族の王や女王達にしろ、大族長の権威を認めていなかったことです。要するに、『女神スカアハの権威は認めるが、エリン族の族長に従う謂われはない』。彼らに共通する態度はこれですな。」

カスパルが歯に衣着せぬ物言いで言葉を吐くと、アイマル市長やメルキオルが窘めるように手振りで制止する。横のネースさんも流石に苦笑していた。

一方、先の大族長の血族であり、現族長の娘であるところのフィオナ、いやこの場ではエマ・マクアノールと言うべきだろう。彼女は、

「仕方有りませんわ。事実ですもの。」

とニコリともせずに肩を竦めて見せた。ただ、目尻がつり上がって表情が完全にフィオナ・マッコールのものに切り替わってしまっている。美々しい装いと猛禽のような眼差し

の組み合わせ。正直、これは怖い。

その顔を覗き込まないように視線を逸らしつつ、先を促す。

「それは、スカアハが女王でいる分には問題ないような気がするけど。」

「女神様が女王として全島に命を下されているのならば、確かに問題はありませんわね。」

オレの口出しは、フィオナの言葉でぴしゃりと押さえられてしまった。口調こそお嬢様としての体面を取り繕っているけど、どちらかというと武張った口ぶりよりも体温が下がるような威圧感がある。おっかねえなぁ、もう。

しかしまぁ。要するに問題点はこういうことか。

スカアハは名目上の君主である事には違いないが、引退してしまったので実質的な為政者としては機能していない。その代行者であるべき大族長は、権威が不足していて『影の島統一政府』の元首として十分に力を振るえない。その、権力の隙間みたいなのが問題だと言いたいんだな。」

オレがまとめていって見ると、カスパルは二度深々と頷いた。その横で、メルキオルが少し驚いた表情でオレを見ていた。

セタンタ様は、のみ込まれるのが早いですね。」

「ま、これだけ説明されれば見当は付くさ。昨日もフィオナやカスパルが色々言ってたの聞いてたしね。」

苦笑で返すと、失敬しましたなどと恐れ入った様子を見せた。

どうやらメルキオルはオレの事をいくらか見くびっていたらしい。ま、仕方ないことだと思うがね。見た目からしたら、オレは典型的な脳筋に見えるだろうし。

「で、他の問題ってのは?」

「最初に言いました、大族長を選ぶ決め方ですな。有り体に言えば、我々には選挙は馴染まないってことでして。」

カスパルは、オレの質問に即座に回答してくる。言い方は相変わらず軽薄だが、やはりこの兄貴の頭のキレは大したもんである。

「大族長選挙って、具体的には今どうやってるの。」

「各部族の氏族長同士で部族長を選び、部族長同士で大族長を選んでいます。とはいっても、今のところ最も重要な条件は、『フィン・マッコールの血族または姻族』ってことになりますがね。」

「それじゃ、実質的に世襲じゃないのか。」

選挙する意味無いんじゃないの、と聞くと、カスパルも首肯した。

「我々の中には、『渡り神の直系こそが統治者たるべし』という意識があるんですな。これは、善し悪しではなく習性のようなもんでして。で、大神アローンから遠く離れた血筋であるにも関わらず英雄として大いなる力を示したフィン・マッコール渡り神に準えて、その血を引く者を大族長に据えることで正当性を主張しよう、と考えていたわけです。少なくとも、そうでもしなけりゃエリン族の中でさえ納得しない人間が多いわけですわ。」

選挙と世襲の折衷ということなんだろうけど、それはむしろ中途半端で、エリンの人々とスカアハのどちらも納得しないんじゃないかと心配になったりもする。

「結局、スカアハの考えてた政体は上手く機能しないから、この建物もタラの市政庁として使ってるってことか?」

「大族長は、族長同士の互選で、しかも実質世襲で継ぐことになるでしょう。元老院と庶民院からなる『国政会議』は、当初から一度も招集することが出来ませんでした。なにしろ立候補者がでないものですから。唯一機能しているのは大法廷ですかね。これは、ほとんどの訴訟を独自に裁いていますから。」

さもありなん、と思う。民主政体というものは、日常的慢性的な重労働からある程度解放された富裕市民層がいて、初めて成り立つものだ。少なくとも、オレの知る限りは。都市でならともかく、農業主体でみな忙しく働くのが当たり前の村では、中央集権的な民主政体はそう簡単に根付かないだろう。理想は分かるが、やはりまだ早すぎるんじゃないだろうか。