異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-01-30

ペリグの手下達は、大いにエキサイトしてくれたメリアドを含めて5人が引っ捕らえられたらしい。

「残り一人を捕らえて来ますんで、皆さんは城へお戻り下さい。」

そう言い残すと、ロイグはすぐさま駆けだした。素晴らしいスピードで一目散に道を走り抜けていくその背中は、あっという間に小さくなっていきすぐに見えなくなった。

まさに俊足。風のような速さである。

「ところで、ちゃんと場所は分かってるのかね、ロイグは。」

「ええ。セタンタ様が脅しつけて下さったので、あの男がすぐに教えてくれました。」

朗らかに答えるカスパルに、ちょっと口元が引きつってしまう。

「おいおい。脅しつけるとか物騒なこと言わないでくれよ。これでもオレは平穏を愛する心優しい好青年だぜ。『説得した』とか『諭した』とか言ってくれよ。」

茶化すようにヘラヘラ笑いながら言うと、うしろから一斉に声が上がる。

「あれはどう控えめに見ても脅迫でしたわ。」

「あの人泣いてた。」

魔法を使って説得、ですか。」

もちろん順に、フィオナホーサレーのお言葉。皆さん揃いも揃ってなんという手厳しいツッコミ。

「まあまあ。悪党一味を取り逃がすより良かったじゃないか。」

苦笑いしながら誤魔化しつつ言葉を返す。

「それに、ペリグ一味にはこの後スカアハの詮議が待っている。近いうちにその罪状に相応しい報いを受けるだろうさ。」

オレの台詞には、先ほどからこちらを注視していた群衆からも、口々に賛同の声が返ってくる。

「そんなわけだから、あんたらも仕事に戻ってくれ。悪党は赤枝の騎士が責任持って捕まえてくれるから安心してくれていい。」

笑って告げると、聞き耳を立てていた様子の野次馬達も笑い声を上げながら市場へと戻っていった。


詰め所に一度寄るという衛兵達を見送ったあと、オレたちは馬車に乗り込んだ。カスパル曰く、予定も随分と押してしまったので、今日は見学コースをこのくらいで切り上げ、夕食時まで一休みということである。

馬車に揺られながら、小声でレーとさっきの現象について話し合ってみる。

「どうしてあんな適当な魔術が成功したんだろう?」

「これは推測ですけれど。」

そう前置きして、レーはオレの問いかけに答えを返す。

「第一に、セタンタ様が紡いだ呪文はちゃんと韻を踏んでいました。呪文はあくまで想念の中に起こりうるべき結果を明確に描き出すための補助手段でしかありませんけれど、それでも韻や語調を整えることで魔術としての体裁を形作ることが出来ます。」

推論を口にするレーの口調には全く淀みがない。やはり、この辺は専門家といわれるだけのことはあるな、と改めて感心する。

「第二に、セタンタ様が織り込んだ言葉です。『真実の光』と仰いましたよね。」

「ああ。確かにそういった。」

「恐らく、『光』という言葉が光霊に強く働きかけたのではないかと思います。いえ、正確にはセタンタ様が抱いた『光』という想念が、でしょうか。」

「はぁー、なるほどね。それでノゾミは、光るだけじゃなくてあいつの心の中まで読んで見せたのか。」

「そう思います。でも、精霊の知性は使役されてきた月日に依拠しますので、あまり複雑な内容は読み取れなかったのだと思います。」

「何となく納得できる説明だな。それは。」

再び短くなった手の中の杖を覗き込むと、それは、ゆっくりと光の明滅を繰り返していた。なにやら、退屈そうな感情が伝わってくる。

「やっぱり、あんまり迂闊に使わない方が良さそうだな。」

「そうでしょうか?」

独りごちたところで、横に座るフィオナから声が掛かった。