異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-02-02

「私は魔術に詳しいわけではありませんので、別段、魔術のことに口を挟むつもりもありませんが。」

と言葉を置いてフィオナは話し出す。

「まず第一に。今日のあの場面では、あの魔術は非常に良い結果を生んだと思いますわ。」

右手の人差し指を立てて、フィオナはハキハキした口調で話す。その仕草が、何とはなしに他の人物を想像させた。スカアハも、要点を整理する時にこういうふうに指を立てるが、きっとこれは意識的か無意識かは知らないが、スカアハに倣っているのだろう。そう考えると、比較的フィオナと話の合う小さなワルキューレ嬢もこんな風な口ぶりになっていくのだろうか。頭の中に指を立てて得意げに喋るシグルーンを思い浮かべて、思わずニヤリと笑ってしまう。

セタンタ様、聞いてらっしゃいますか?」

「ああごめん。確かに、今日のあのタイミングでは、あの魔術が働いてくれたのは"結果オーライ"……いや、最良の結果だったかもな。」

不用意に脳から漏れてきた日本語を口にすると、フィオナは怪訝な表情を浮かべた。慌てて訂正する。

「とにかく、あそこで魔術が役立ったことについては異論はないよ。続けて。」

「もう一つ申し上げたいことは、『迂闊に使わない方がいい』と萎縮しては、かえって重要な時に必要な力を出せないのではないか、ということですわ。」

そういうフィオナの態度は、口調や姿勢こそお姫様然としているモノの、鋭い眼光は間違いなく騎士としての自分に立ち返っている。

うーむ。見た目が美人な分だけ、こういう時はおっかねえなあ。

「ま、確かにその意見は分かるがね。」

言わんとするところは理解できるだけに、頷かざるを得ない。

「ビクビクしておっかなびっくりやってると、肝心な場面で思い切れずにあとで後悔するんじゃないか。要するに、いざって時に躊躇うなってことだよな、つまりは。」

聞き返した言葉に、フィオナは深く頷いた。

「……その、ですが。」

控えめに言葉を挟むレー。どうしたのかと様子を窺うと、フィオナの方を気にしているそぶりを見せる。どうやら、オレと二人で話している時と較べて気兼ねしているらしい。

以前より随分明るく物怖じしなくなったと思っていたんだけど、どうやら人見知りの気はいくらか残っているらしい。

「別に構わないよ。言いたいことがあるなら言ってくれ。その方がオレもあり難いから。」

オレが勧めると、レーは頷いて言葉を続けた。

セタンタ様の光霊、ノゾミの力は特別です。まだ使い手も精霊も経験が少ないのですから、使い方には慎重になった方が良いと思うのです。」

ま、これはこれで妥当な意見ではある。

「ヨンダ?」

レーの声に反応したノゾミが、手元の杖からニョロリンと顔を出した。さっきから、どうも落ち着かないというか退屈しているというか、そんな感情をしきりに無言で訴えかけていたせいか、勝手に杖から出てきても驚きはしない。とはいえ、こういう考え無しというか御しにくいところが、今一番問題なんだけどね。

「呼んではいないけど、暇なんだろ。出てていいよ。こっちおいで。」

右の上腕を宛がうと、杖から這い出してきたノゾミはぐるぐるととぐろを巻いて、ドラウプニルと重なるように腕に巻き付いた。頭の部分は腕からもたげられて、肩からレーのとなりに顔を覗かせている。

「ま、こんな風なんだよ。オレの言うことは大体聞いてくれるけど、やりすぎな時や的外れな時もある。全力を振るえば山一つ消し飛ばすくらい苦もなく出来る力を秘めているのに、頭の中はまるっきり子供なんだよ、コイツは。」

ま、これはこれで可愛いんだけど。そう苦笑すると、フィオナはにっこりと笑みを浮かべた。

「今朝、セタンタ様がその杖を伸縮された時にも思ったのですが。やはり、その杖と光霊、ノゾミ殿がどれだけのことを実現できるのか、実際に色々と試してみる方がいいと思います。」