異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-02-03

「つまり、経験が足らなきゃ経験を積めばいい。限界が分からなければ試して知ればいい。と、そういうわけか。」

「ご明察ですわ。」

言葉は誉め言葉だが、言外に「単純なことじゃないか」と言わんばかりの雰囲気を漂わせている。やっぱり中身はあのスパルタン女騎士だから、判断が竹を割ったようにスッパリしてるな。

これで自分の身の回りの問題もスッパリ片付けられれば言うこと無いんだが、家族ともなるとそういう理屈だけじゃ割り切れないことも出てくるのだろう。

「そりゃまぁ。確かにその通りだとは思うがね。」

こちらも、言外にそう簡単な問題じゃないんだと匂わせながら言葉を返す。いつだって、他人の問題は単純明快に見えるものだ。まぁ、だからこそ逆説的に他人のアドバイスを聞く価値があるのだけれど。色々しがらみや思惑に囚われていると見えない本質というのがあるのも確かだ。

「躊躇する理由を教えて下さいますか?」

こちらが示した逡巡にフィオナも、問題点があるならいって見ろ、と言う態度になる。

「問題は、大きく分けると二つ、かな。一つは何かが起こった時の被害が予想できない。二つはその被害を起こさないようにする安全策が思いつかない。」

そういってレーに目配せすると、頷きが返ってくる。

「ノゾミ君が何をしても、オレ以外には被害が出ない方策があるんなら、実験するに吝かではないんだけどね。」

「本当に方法はないのですか?」

フィオナの問いかけに肩を竦めて見せると、レーが言葉を返す。

「いくつか方法があるにはあるのですが……」

「へ? あるの?」

「ええ。一番簡単なのは、セタンタ様が誰か魔術に長けたものと契約を交わすことです。そうすれば、そのものはセタンタ様の代わりに精霊を使役することが出来ますから、本当に良くないことは避けられると思います。」

「そんな手があるんだ。なら……」

「ですが、この方法には問題があるんです。一つは、その者は本当に信用できる相手でなければなりません。特に、セタンタ様のように力の強い方ですと、万が一欺されてしまった場合取り返しが付かないことになりますから。」

確かにその通りだな。オレの代わりにノゾミ君を使えるんだとしたら、その"誰か"は相当やりたい放題出来るだろうな。例えるなら、核兵器を持って国を脅すテロリストくらいのことは出来るだろう。……なんて物騒な。

「もう一つってのは?」

「……その。えっと。申し訳ありません。あとでお話しします。」

オレの問いかけに、レーは急に黙り込んでしまった。

さっきの女王云々の話の時と同じく、どうやら人前では話せないような内容らしい。

「わかった。また聞かせてくれ。」

オレが笑って話を切り上げると、レーはもう一度そっと謝った。

「ま、フィオナの言うことももっともだから、そのうち算段はしないとダメだな。」

「ええ。やはり自分の手の中にある武器のことを知り尽くしているのが良い戦士……と聞いたことがございますわ。ほほほ。」

フィオナは、途中でとってつけたように言葉を継いで、笑って誤魔化した。どうやら、このモードの時には言っちゃまずいことが微妙にあるらしい。もっとも、そんな建前普段から守り切れていないようだけれど。


そうこうしているうちに、馬車は城の城門へと近づいた。幾分赤みを帯びてきていた日射しは今や、すっかり茜色に染まっていた。

館の前に馬車が止まると、いち早く降りたカスパルが陽気に挨拶した。

「みなさま、本日は一日お疲れ様でした。アクシデントもございましたので、山上の見学はまた日を改めたいと思います。夕食まで些か時間がございますので、お部屋などでおくつろぎ下さいませ。」

流暢にそう口上を述べると、館の前に待ちかまえていた使用人と思しき人たちに手早く指示を出す。そんな様子に、一応の確認を投げる。

「そういやカスパル。明日の予定は?」

「実を申しますと、明日と明後日は私が案内役を勤められませんので、妹に任せようと思っております。」

「おや。閑職だとか言ってる割にはけっこう働いてるんじゃないの。」

そういって茶化すと、カスパルは苦笑しながら肩を竦めた。

「いえ、城代ってヤツは普段は本当に閑職なんですよ。ですが、6日後には女神様の御行幸がございますので。」

「ああ、そういやそうだったね。」

「本来の仕事をしなきゃならんので。」