異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-02-24

「我が国エリン、正しくは『ワレンディル女王国』が国号となりますが。今、権力が非常にあやふやな状態で運営されています。宰相格の私の口から申し上げるのも差し障りのある話ですが。」

コノーアさんは、前振りの説明を終えた後に、おもむろに現在の問題点を挙げた。

一つ、国王たる女王スカアハが半ば幽棲したような状態であること。

一つ、宰相格にして元首代行を長く勤めたフィン・マッコールが勇退していること。

一つ、本来は女王治下の共和制に移行するべきであった国体が、不完全な部族制に基づく寡頭制となってしまったこと。

一つ、妖精などの他種族についての統治権はどうしても神族たる女王に帰属せざるを得ないこと。

一つ、隣国であるコノート王国女王メイヴとの摩擦は、人の身に過ぎない大族長には解決が難しい。

どれも確かに問題なんだろう。だが、オレとしてはどれもコノーアさんになら解決可能な課題のように思える。少なくとも今まで聞いた限りでは、国事行為のうちどうしても必要な事案にはスカアハを引っ張り出せばいいし、政体だってなにも共和制に拘る必要はない。他種族については連合政体を組む手もあるだろうし、隣国との問題は結局のところどれだけ軍備を備えているかの問題だ。

だが、どうもそんなことは割合軽い問題のようだ。最後に深刻な顔でコノーアさんはこういった。

「我々エリン族は、大神アローンの数多い末裔の一流です。アローンの末裔は3つの民族と18の大部族に分かれましたが、今もなおアローンの直系たる王家を存続しているものは、西アローンのリリトリル王国ただ一つです。」

正直、まだ歴史の話は習い始めたばかりなので、さっぱりその辺の話はわからんのだが、アローンとその一族が最初にこの西方世界に住み着いたという話は聞いた覚えがある。つまりエリン族は、この世界で二番目に古い神族の末裔と言うことになる。

「他の王国は、あるいは王家が絶えて離散し、あるいは新たな神族の末裔によって滅ぼされて自らの王を戴く事ができなくなりました。我らエリンの民も、コリン王国の崩壊より流れ流れてこの影の島へ移り住み、幸いなことに白夜の女王スカディ様を我らが女王スカアハ様としてお迎えすることが出来ました。」

へぇ、と流しそうになったけど、理解した瞬間ビックリした。

スカアハって、元はスカディって名前なの?」

思わず聞き返す。

「ええ。フィン・マッコール様が頼み込んで影の島に来ていただくまで、白夜の国の女神でありスカディと名乗っておられました。もっとも、『影なる女』という意味は一緒ですが。」

「そーか。名前代わったりするんだ。」

考えてみれば当たり前の話だけれど。渡り神真名と名乗りを別々に持つ。そうであれば、名乗りは代わっても抵抗はない。所詮は本来の名前ではないのだし。

「続けてよろしいでしょうか。」

「あ、ああ。話の腰を折って済みません。」

謝って先を促す。いまはそれよりもコノーアさんの話を追う方が重要だ。

「我らは、一度神と王家を失った民です。その喪失が何事にも耐えがたい苦痛であることを知っています。」

「うーん。それはどんな気分なんです? オレには今ひとつ見当が付かないんですが。」

オレの質問に、コノーアさんは腕を組み眉間にしわを寄せた。

「そうですな。『知らない土地に突然放り出された子供の心持ち』とでも言えばいいのでしょうか。」

「まぁ、何となく想像はできます。」

国民全員が迷子状態になれば、確かに大混乱だろう。

「ですから、私にしても民にしても願いはただ一つなのです。敬愛するスカアハ様が夫を持ち、子を成して下さること。そして我らをその英知で末永く統べ、子孫へと王国を相続して下さること。それが一番だと考えております。」

共和制など、女神様以外の誰も望んではいないのです。

国家元首の口から出るにはあまりにショッキングな言葉を、コノーアさんは真摯な面持ちでオレに告げた。