異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-03-01

「仮にオレの推論が当たっていたとしてですが。」

前提を置きながら、コノーアさんに自説を説いてみる。

スカアハが期待するのも無理はないと思うんですよ。」

そういって、このところ見聞きしたこの国の事物を一つずつ挙げていく。

良く整備された交通網や都市・港湾といった建造物は、一朝一夕に作れるはずもない。また、治安維持や係争解決を図ったり、経済振興策を施すなど、そこに住み暮らす人を生かす仕組みは物を作る以上に大変な問題だ。

もちろんそれは、スカアハ一人の業績であったはずはない。そこには、スカアハの示す方針に従って理想を現実に変えてきたエリン族の弛まぬ努力があった事は間違いない。

それらを構築する取り組みだけでも並大抵のものではないだろうに、一番重要なことは、それを語るエリン族の人々が、それらの変革を誇らしげに好ましげに語る点だ。あるいは、時に自分たちの力不足を率直に語りさえする。過去に積み上げた業績に自信は持ちながらも、決して慢心せず向上心を持ち続けている。

それが、オレの会ったエリン族の人々の姿だ。

「100年から働いたのは、なにもスカアハだけの話じゃないでしょう。その間に、エリン族はそれまでとは違って新たな考えや新たな技術を備え、繁栄してきたのではないですかね。それとも逆に、政治体制を整える余裕もないほど疲弊しましたか。」

「疲弊などとんでもない!」

揶揄するように言い放つと、コノーアさんは呼応するように憤慨して見せた。

「かつて、エリンの民の住居は穴蔵のような半地下の小屋で、牛や豚と一緒に暮らしていました。しかし、今そのような暮らしをしているエリンの民は一人もいません。それもこれも、女神様が我らを導いてくださったからです。」

「まぁ、指導者が優れているってのは確かに、隆盛の必須条件だと思いますよ。」

肩を竦めて同意する。

「ですが、スカアハがただ一人の優れた指導者だとも限りませんよね。いずれ、世代交代をしなきゃならんでしょう。だったら、コノーアさんが『優れた指導者』になればいい。いや、ならなきゃいけない。」

違いますか。

「仰るとおりです。」

オレの言葉に、眼前の大族長は居住まいを正した。

エリン族は、我らが国は、確かに世代交代を迎えました。いや、既に私がフィン・マッコール様より大族長の役目を継いだ三年前に、交代は成されたと言うべきでしょう。」

その先の言葉にオレは注目する。

そう、コノーアさんが大族長として就任してから既に3年が経っているのだ。3年と言えば、権力の委譲とその定着に十分な期間だと思われる。

なら、何故今頃になって王家がどうのと言い始めたのか。

「しかし、女王様が政務を執られなくなってから3年。この間に発生した他部族や他の妖精族などの反発は次第に強まっています。最も最近の例では、水利権問題に絡んでとある部族と妖精族、あるいは周辺の部族との間で紛争が始まる直前になったことがあります。……セタンタ様もご存じのはずです。」

「あー、あの件ね。」

例の、オーリン族の一件を思い出す。ほんの一月ほど前の話なのだが、それ以降も色々イベントが山積みだったせいで、もう既に記憶があやふやになってきている。

「あれは、単純に水の問題だけじゃないんですか?」

妖精族のちびっこどもとか、オーリン族のおばちゃんたちとか、割とどうでもいいことばかり思い出しながら話を合わせる。

「あの事件の根本原因は、もちろん麦作に必要な水源の問題でした。ですが、統治者として私が一番問題を感じたのはそこではありません。」

真剣な表情に苦々しいものを浮かべながら、コノーアさんは言葉を継いだ。

「影の森の女王・タニアは、女神様に忠誠を誓った臣下ですが、大族長に従う義務はありません。ですが、こちらからの調停を受け入れる用意があると回答していました。一方、オーリン族エリン族とは他の部族であり、族長会議に代表を送り込むことを認められていませんが、それでも大族長に従う義務を負う存在です。しかし、私の調停に対してオーリン族は『大族長の命には従わない、女神様にのみ従う』と返答してきました。」

テーブルに載せた拳を強く握りしめながら、大族長は話を続ける。

「他の部族にも、この傾向は多かれ少なかれ出始めています。要するに、『女神様は怖いが、英雄フィンではない大族長など怖くもない』というわけですな。」