異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-03-02

「指導力不足と言われれば、一言の反論も出来ないのですが。結局のところエリン族、あるいは人間一般と言ってもいいでしょうか。ともかく我らは、神族の権威には些か盲従ともいえるほど心服するのに対して、人が作り上げた権威を不自然なものとして嘲笑する傾向があります。つまり、彼らにとって、いや当の私にとっても『大族長』とは、王の権威を代行して政務を行う執政職に過ぎないのです。」

大族長の強く引き結んだ唇からは血の気が薄れて白くなっている。

「今はまだ、それほどそう言った傾向が強いわけではありません。しかしもし、今の状態を放置し続ければ、早晩、ワレンディルは4つ以上の領邦に割れ、女神様がいらっしゃる前の荒れた国に戻ってしまうことでしょう。」

それは、なんとしても避けなくてはなりません。例えどんな手を使ってでも。

コノーアさんはこれ以上ないほど沈痛な表情で決意の程を告げた。

「うーん、どーもその感覚がわからんのですがねぇ。まぁ、他でもない大族長本人の言う言葉ですから、間違ってはいないんでしょうけど。」

その語気から、少なくともコノーアさん本人がそう信じていることは疑いようもない。それに、今日会った市長やら巫女長やらといったえらい人々も、やはり同じように考えていることは想像に難くない。

「すると、オレを王にしよう云々というのは、スカアハがダメなら他の渡り神を、って事かな。」

「率直に申し上げますと、そういうことになります。」

言葉の端に恐縮した様子を滲ませながら、コノーアさんは首を縦に振った。

「代わりがオレでも構わないってことは、実際に政務能力が無くてもかまわないって事だよね。」

「そうなります。もちろん、聡明であるに越したことはございませんが、我々が王に求める資質は、一つに正真正銘の渡り神、あるいはそれに近い血筋であること。一つは人の心を脅かすに足る魔術的な力を持つこと。最後の一つは、子孫を残しうる若さを持つこと。この三つです。」

なんともはや。実に身も蓋もない話である。結局のところ、神族なら誰でもいいという辺りに、なんというかビミョーな無節操さを感じてしまう。

「つまりまとめると、『自分たちの代表として選挙で選び出した大族長』よりも、『どこの馬の骨か分からんようなポッと出の神族』の方が権威になるというわけでよろしいか?」

ちょっと苛ついたせいか、オレも僅かに伝法な物言いになってしまった。

神族であればどなたでもいい、とは申しません。少なくとも、今お話しさせていただいている限りでは、セタンタ様ならスカアハ様の後継者として望ましいと考えております。」

「……そういう問題ではないでしょう?」

思わず、声が低くなる。コノーアさんの言っていることは、事情は分かるもののさすがに失礼な話だ。それも、オレの扱いよりも、スカアハという偉大な先駆者を継承するのに、僅かの間会話をしただけの相手で十分だとするところが失敬だと思う。

きっと、目も据わっていたのだろう。オレを真っ正面から見つめ返したコノーアさんは、

「お怒りはごもっともです。いえ、このようなお話をせねばならないことに、私自身も憤りを感じております。しかしながら、誰か王座に神族が座らぬ限り、国内は乱れ、いずれは女王位を狙うコノートのメイヴがまた軍旅を起こすことになるでしょう。まだ、今からならばなんとでもなりますが、さりとて手を拱いて座視するわけには参りません。」

そう、コノーアさんはきっぱりと言い切った。

「その、メイヴがどうこうっていうのは、間違いないんですか?」

「メイヴは今でこそ大人しくしておりますが、かつてスカアハ様に屈服してより以降、ずっと雪辱の機会を狙っております。状況からの推測ですが、タラに反抗的な諸族を嗾しているのはメイヴの手のものであると考えています。確たる証拠はまだですが。」

「それは、スカアハには報告してあります?」

「推測だけはフィン様よりお耳に入れてありますが。」

うーん。正直に言ってまだ知らないファクターが多すぎて、オレには何が正しいのか分からん。だけど、はっきりしていることは一つだけある。

「コノーアさん。何はともあれ、スカアハと良く相談した方がいいと思いますよ。昼間、この話が最初に出た時も言ったけど、スカアハはこういう話を門前払いするような人間じゃない。今度来る時までになるべく情報を整理して、推測まで含めて報告するべきだと思うね。」