異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-03-08

「仰るとおりです。」

コノーアさんは、一度深い溜め息をついた後、不承不承と言った風情で肯いた。

「理解は出来ます。ですが、それがなかなか難しいお話なのです。」

今までで一番深刻そうに、というか一番悩ましげに大族長はそう口にした。

「どうしてです。初対面同然のオレにこれだけぶっちゃけて話せるんですから、気心も知れてるし政策に関する知識も網羅しているスカアハなら、もっと踏み込んで相談も出来るはずではないですかね。」

と、当然の疑問を投げかけてみると、深くなった自嘲の笑みが帰ってきた。

「そこが逆でして。」

コノーアさんは、先ほどまでとは些か異なる口調で説明を始めた。公人としての顔よりも、私人コノーア・マクアノールとしての感慨が混じっているように思える。

「私などは、生まれた時からスカアハ様を『女神にして女王』として崇拝してまいりました。今でも、この世で最も尊く気高いお方の一人だと慕い、そして畏れております。」

ですから、とコノーアさんは気恥ずかしげに俯いた。

「女神様を前にして、ご意志に適わない意見を言う勇気が、私にはありません。他にもそれが出来る者はおりません。例外は先の大族長フィン・マッコール様と、現在の大巫女グラナ様ぐらいのものでしょう。」

「はぁ。つまり、スカアハが怖くて意見なんかできるわけがない、と。」

「そういうことに、なります。お恥ずかしながら。」

「そりゃ、スカアハは確かに怖いけどさ。」

特に、あの拳はちょっと危険なぐらい痛いからな。魂的な意味で。

まだ数回しか殴られたことはないが、あれを食らうことを考えたら確かに怯む。

そうは言っても、事は個人的な悩みだとかバカバカしい相談というわけでもない。他でもない、この国の未来に関わることなのだ。

「怖いとか畏れ多いとか命の危険を感じるとか、そんなこといってる場合でもないでしょう。さっきコノーアさん言いましたよね。『例えどんな手を使ってでも』って。」

「全くもって、セタンタ様の仰せの通りです。」

「なら、今度スカアハが来た時に相談を持ちかけましょう。スカアハはたぶん、叱ったり腹は立てたりするかも知れないけど、それでも話は聞いてくれますよ。コノーアさん一人で不味ければ、市長でも議長でも巫女長でも大判事でも、とにかく関係ありそうな連中を連れてきて、一緒に話をしましょう。いざというときはオレも含めて一蓮托生、みんなで一緒に叱られたらいいじゃないですか。」

笑ってオレが言うと、コノーアさんは慌てて制止しようとする。

セタンタ様。さすがにそこまでお願いするのは……」

「コノーア大族長。」

こちらも、大族長の言葉を無理矢理遮って言葉をぶつける。

「いまさらここで退かれても困りますよ。迷惑だと言うんなら、最初から代役だの王家だのといった話をオレのところに持って来なきゃいいんです。」

渋い顔で同意するコノーアさんに、肩を竦めて言い聞かせる。

「迷惑なら、もう既に掛かってますからね。オレとしては、有耶無耶のうちにこのまま妙な陰謀の一味みたいにされてしまう方がよっぽど困りますから、オレも同席してるところでスカアハときちんと話をして貰った方がずっといいんです。」

もちろん、同席するのは何かあった時に仲裁したり、スカアハとの話を橋渡しする為だが、そこまでいうとさらに話がややこしくなるかも知れない。あくまでこういう話にしておく方がいいだろう。

「ありがとうございます。」

だがどうやら、言外に含んだ意味の方も伝わったようだ。コノーアさんは礼を口にした。

「自分のためですから、礼なんていりません。それより、スカアハが来た時に何をどう説明するのか考えて、同席させる人間を決めて、キチンと段取りをしておいた方がいいですよ。」

「ええ。今夜直ぐに人選します。……セタンタ様、重ねて御礼申し上げます。」

手をしっかり握って二度振ると、コノーアさんは慌ただしく部屋を出て行った。

ふぅ。

その背中を見送り、扉が閉まるのを待って息を一つ大きく吐いた。

なんか疲れたな、ほんと。本来、オレには直接関係ないはずの話なんだが、内容が内容なだけに、まるっきり知らぬ存ぜぬというわけにも行かない。なにやら妙な風向きになってきた事ですな。

一気に感じられた疲れに、夕食まで仮眠をとろうとベッドに横になる。

窓から吹き込んでくる夕暮れ時の風が、気持ちよく身体を撫でる。その風に誘われて、意識がすっと落ちた瞬間。

扉を威勢良く叩く音がした。

セタンタ様、夕食の準備が整いましたわ。」

フィオナの良く通る声で、寝入りかけた意識は直ぐに目覚めてしまった。。

「……あ、ああ。今行くよ。」