異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-03-15

フィオナに案内されたのは、昨日と同じ大広間だった。

「今日もお客さんいっぱいいるのか?」

尋ねた声が、自分で思っているよりも嫌気の乗ったものだったらしい。フィオナは眼を細めてこちらを眇め見た。

セタンタのような貴人になると、人に会うのも仕事のうちだ。早くなれた方がいいぞ。」

腰に手を当て窘める素振りは、とても貴人に対する態度に見えないけどな、などと思ったが肩を竦めて肯いておく。

「今日は随分あちこち見て回ったからな。ちょっと気疲れしただけさ。」

「心配しなくても、今晩は来客というほどの人は集まっていない。家族の他には、交易商のミョイグネンが礼を言いに来ているだけだ。」

「ミョイグネン……えーと、聞いた名前だな。だれだっけか。」

オレが、こめかみを指で突きながら思い出そうとしていると、フィオナは苦笑した。

「本当に今日は疲れているみたいだな。」

そういいつつ助け船を出してくれる。

「お前が助けたあの娘、オイフェの父親だ。ノルド族の交易商で、タラでも指折りの金持ちだ。」

「あー!オイフェさんの!」

そういや、父親が大金持ちとか言ってたな。

「娘を救い出してくれた恩人にまずはお礼申し上げたい、とか言っていたぞ。」

「まぁ、あんだけ超絶美人の娘さんが掠われて助け出されたとなれば、さすがにお礼を言いたくなる気持ちも分かるな。つっても、オレ大したことしてないんだけどね。」

「山賊の首領を魔術で降伏させたんだろう。それが大したことじゃないわけがないだろう。」

「そんなもんかね?」

オレの疑わしげな返事に、フィオナは大仰に溜め息をついた。

「少なくとも、世間一般やミョイグネンは、セタンタの事を万能の魔術を振るう無敵の勇者だと思っているぞ。」

「うへぇ。そんなこと言われましてもねえ。」

「きっと、助けてくれたお礼に娘を嫁に、とか言って来かねんぞ。」

うーむ。自分の父親が同じようなこと言ってきてるのは自覚無いのかねぇ、フィオナさん。

「まぁ、オイフェさんくらい美人だったら嫁に貰うのもいいかもしれんな。美人でお淑やかでしかも財産付きって、これ以上ない条件だしな。」

と冗談を飛ばしたところ、フィオナはふんっと荒く鼻息を付いた。

「ふざけていると、本当にそんな話が決まってしまうかも知れないぞ。あまり調子に乗るな。」

不機嫌にぴしゃりと言い放つと、大広間の扉を開いた。

ちょっとしたジョークなのになぁ。そんなに怒らなくても。


「この度は、我が娘の命をお救いいただきましてお礼の言葉もございません。」

と、紅潮した表情で迫ってきた初老の男性は、ふっくらとした顔に押さえきれぬ感激を表しながら、オレの前に仰々しく跪拝した。

「我が娘は、私ども夫婦の唯一無二の宝物にございます。無事山賊どもより身柄を取り戻して下さったセタンタ様に、どうすればお礼を差し上げられますでしょうか。私どもの身代を投げ打ってでもお礼させていただく所存にございます。」

うーん、なんかこう。よっぽど感激してるのかどうか分からんけど、なんかぶっ飛んでるねこの人。かなり正気が危うい感じすらする。

「そ、そうですね。とりあえず、オイフェさんにもお礼言われたしそれで十分ですよ。」

迫力に押されて腰が引けつつも、笑いながら返答する。

「いえ、とんでもございません!愛しい我が子を助けて下さった恩人にそれ相応のお礼を差し上げなかったとなれば商人・ミョイグネンの名が廃ります!そうだ、ここは一つ我が娘とわが家の全財産を差し上げましょう!是非ともわが家の婿としてセタンタ様に来ていただけませんか!」

暴走したミョイグネン氏に、オレは思わず周りに助けを求めようとするが。

コノーアさんは不在。デヒテラさんはにこやかに「あらあらまあまあ」なんぞと笑うばかり。フィオナホーサは、心なしかこちらを見る視線が冷ややかだし。

結局、ミョイグネン氏の家で歓待を受けるべくお呼ばれをすることになってしまった。

セタンタ様に、絶対ご満足いただくおもてなしをいたします。ご期待下さい。」

少し落ち着いたミョイグネン氏は、大身の豪商らしい態度を幾分取り戻して胸を叩いた。