異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-04-19

「それで、どこから話せばいいんだ。」

溜め息を一つついて、ペリグはオレをじっと見た。その視線には、さっきまで満ちていた怒気や殺気といった気配がない。どちらかというと、揶揄するような、オレを試すような、なにやら皮肉げな視線だ。どうやら、そんなに聞きたければちゃんと話を引き出して見せろ、ということらしい。

牢番に頼んで、椅子を持ってきて貰う。中年の守衛がしきりに恐縮しながら差し出した、古びた木の椅子に腰掛け、もう一度ペリグに向き合う。

「あんた、どこの生まれなんだ。『マルセルの海賊騎士』って誰かが言ってたのは覚えてるんだが。」

「マルセルの南、大内海にマヨルカって島があってな。そこがオレの故郷だ。」


ペリグは、大内海の小さな島、マヨルカに生まれた。

生まれは、領主に使える戦士の次男坊だった。マヨルカの領主はニヨラというマイナーな神の直系の子孫で、領土は小さいながらも王として島を収めていた。だからそのお抱え戦士であるペリグの父親は騎士階級ということになる。

マヨルカは大小30ほどの島から成るバリャド諸島の最大の島だが、それでも3日もあれば横断できてしまうくらいの小さな島だ。だから、麦や豆など畑に蒔いてもたかが知れている。島の山手では、古くから塩が掘れることが知られていたが、それ以外に大した産業もない。

男達の仕事は自ずから、漁と交易、あるいは付近の海域での水先案内などになる。

ともあれ、さして人が多くもないし特別なものがあるでもない。モレナドール(西アローン)やヴァンドール(南アローン)、ロマニアなどから静養に来る人間が極稀にいる程度の、退屈だが平和な田舎の島であった。

ペリグは小さい頃から身体が大きく、また父親が戦士だったこともあって、直ぐに戦い方を仕込まれた。また、島の子供は誰でも物心が付く頃には船に乗っていて、10を過ぎる頃には小舟を自由自在に操れるようになっていた。

その頃になると、ペリグ少年は将来に思いを馳せるようになった。

彼はは次男の生まれであったから、父親の身代を受け継ぐことは出来ない。少し虚弱だが人のいい兄は、きっといい頭領として家を切り盛りしていくだろう。

その時、彼には選択肢が二つある。

一つは、兄の配下の戦士として生きること。これは、ただ生きていくだけならばそれほど悪くない生き方だ。船乗りの仕事はいつだって人手が足りないから、働けるうちは厄介者にもされないだろう。運が良ければ嫁も貰えるかも知れない。さすがに分家して一家を立てるのは無理だろうが。

もう一つは、島を出て外の世界で仕事を探すこと。これも、決して無理なことではない。島を出て行く若者は少なからずいるし、その中で大きく成功したものも幾人かはいる。そんな島の出身者達は、島外でもお互いを助け合っている。何もかも面倒を見て貰うことは出来ないが、仕事の口利きくらいはしてくれるだろう。外の世界に出て行くのは怖いが、それ以上に何があるのか見てみたい、そんな不安と憧れ、相反する気持ちもあった。

成人になる15までには、自分の将来を決めなくてはいけない。だが、どうすればいいのか分からない。

そんなことをボンヤリと考えていた頃、ペリグ少年は恋に落ちた。


「恋っすか。」

「なんだ? 文句があるんならやめるぞ。」

「……いや、無いけどね。」

「似合わないとか考えてるんだろう。ああん?」

「んなことないけど。」

「だったら黙って聞いてろ。話す俺だって恥ずかしいんだ。」

「すまんすまん。」