異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-05-11

ペリグとその一味は、大々的に喧嘩を買った。

ペリグは本当にほぼ全ての財産を処分して軍勢を集め、それまで敵に回ったことが知れている船を端から襲撃して回ったのだった。

これはもちろん、敵手であるアラゴン王の思う壷であったが、その予想を上回っていた部分もあった。

集めた隻数は実に72隻。東地中海の歴史上、これだけの軍船を召集した個人はかつて誰もいなかった。王侯でも、ロマニアの100隻、アレクサンドリアの80隻が規模で上回るが、それに並ぶ程の数を集めたことになる。

この大船団をペリグは二つに分け、一方は西アローンの海岸沿いに南下させてカルタゴナを目指して進ませ、もう一方はコルスとサルディスの沖を遊弋しつつマヨルカを目指した。

この行動はアラゴン王の知るところとなり、対抗する船団がすぐさま召集された。

アラゴン王は、傘下のバレンサ伯や同盟者のカルタゴナ伯などからなる連合海軍を編成した。その数37隻。辛うじてペリグの軍船の半数といったところであった。

ペリグの派遣した分艦隊はバレンサの沖で連合海軍と衝突した。しかし、このときの戦闘は互いに痛み分けに終わった。連合海軍側は隻数に劣り、ペリグ側は数で圧倒しながらも寄せ集めであったから、どうしても統率に劣っていた。互いに損害を出しながらも、ペリグの分艦隊は一度バルセイロへ引き上げる。一方の連合海軍は手近なバレンサへ引き上げた。

ペリグの率いる22隻の艦隊がバレンサへ到着したのは、その翌朝のことだった。

まだ乗員の休養も取れていない艦隊が投錨している港へ、ペリグは麾下の軍船を突入させた。敵艦隊を撃退して安心していたバレンサの町は、間を置かずに現れた海賊商人達の前にひとたまりもなかった。

町は略奪され、船は焼かれ、伯をはじめとする町の住民は先を争って逃げ出した。


「そういう次第で戦には勝った。だが、それがカルロの狙いだったんだな。」

「どういうことさ。」

「カルロは陰謀と駆け引きに長けた男だ。伊達に、頭と舌だけで覇者になっていない。俺が暴発して軍を起こすのを待っていたんだな。」


バレンサに引き続きマヨルカを攻めてマヨルカ王を退位させ、マヨルカをもその支配に加えようと目論見始めたペリグの耳に、二つの知らせがもたらされた。

バレンサの町を略奪した無法の海賊の首領が、実はソルメール王国に属するマルセルの騎士ペリグ・ドルドニーであるとして、アラゴン王カルロ5世の回状が近隣諸国に回されたという知らせが一つ。この回状には、ソルメール王国宰相による書状の写しも添えられ、アラゴン王とソルメール王の間で和平の協定が結ばれている事を明記していた。

マルセルは確かにソルメール王国に属しているが、マルセル公爵は王国の中でもほとんど独立した君主であり、王国政府によって外交や軍事政治を掣肘されるようなことはない。だから、王国宰相の約束など現実的にはさほどの意味はないが、大義名分としては十分ペリグの行動を咎める論拠となりうる。

もう一つは、マルセルにて艦隊への補給を任せていた右腕ともいえる幹部が、その資金を持ち逃げしたという話だった。噂では、その幹部はそのままアラゴン王の陣営に駆け込んだという話がまことしやかに流れていた。

この噂を受けて、報酬の支払いや食料の供給が滞るという話が艦隊にあっという間に出回り、勝手に離脱する船が出始めていた。

さらに悪いことに、アラゴン王はこの略奪行為を神の定めた海の秩序に挑戦する暴虐だと言い立てて、海神ネプチューンに訴え出るとまで言っていた。

ペリグが立て直しの切っ掛けを得ることも出来ずに手を拱いている間に、寄せ集めの手下は櫛の歯が抜けるように去っていき、ついには王国の問責使までが派遣されるに至った。

戦に勝って都市二つを支配に置きながらも、ペリグは政治力でその有利を奪われてしまったのだった。

ついにペリグは、一握りの部下を連れて逃げる事を決意した。