異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-05-25

「眠り病は医師や薬師には治すことの出来ない病ですが、それ以外に癒す方法はいくつか知られています。ただ、どれも『治った例がある』というだけで、同じ事をやったからといって、必ず治るわけではありません。ですから、リャナン・シー様かスカアハ様に一度患者を診ていただいてからでないと確かなことは言えないんです。」

そう前置きして、レーは治療法を話してくれた。

その方法というのは実に簡単で、

  1. 名前を付け直す
  2. なるべく長い時間身体に触れたり話しかける
  3. 異性が口づけする

といった行為を行うだけでいいらしい。ただし、それを行うのは神族である必要がある。それも、初代の渡り神に近い血筋であればあるほどいいと言われているそうだ。

「ですから、渡り神の娘であるメイヴ様よりも、渡り神そのものであるセタンタ様の方が癒し手として優れていると思います。」

そう言ったあと、レーは口ごもりながら続けた。

「ただ、あの、その。男の子相手ですと、女性の神族の方が、あの、いろいろ出来ることは多いのですけれど。」

その口調からして、どうやら口に出すのが憚られるような行為らしい。

「一体何をすんの?」

「その。あの。えーと、性的な、ことです。」

「子供相手にか!?」

「あう、そ、そのですね。乳飲み子には乳を含ませたり、経血を与えたりもするとか。」

「……うへぇ。」

生々しいというか、グロいなそれは。

「そんなことをしなくても、力の強い渡り神の方であれば、抱き上げて名前を呼んであげるだけで回復することもあるそうですから。」

「へぇー。なんだか妙な病気だな、それは。」

病原菌とか遺伝性の病気とかなら、渡り神だけが治せるという奇妙なことは起こらないだろう。それに渡り神だからといって医療技術を持っているわけではないのは、オレ自身を考えれば分かることだ。珍妙な風土病なのか、それとも渡り神は癒し系電波でも発生させているのか。いずれにしろ全く理解しがたい現象と言う他はない。

「それで!俺の息子は治るのか!」

とりあえず、今の説明ではペリグが期待してしまうのは無理もない。

「今の話を聞く限りだと、オレやスカアハなら治せるかも知れないって事になるな。」

「なら頼む!何でもするからグリフを治してくれ!この通りだ!」

ペリグは、その場に膝を付いて懇願の姿勢を取った。土下座するのとほとんど変わらない無心の態度である。

ここまでの身構えを見せられると、無碍には断れない。もちろん、断るつもりはないのだけれど。

「結果までは保証できないが、手は尽くすことを約束する。……その代わり、何でもするって言ったこと、忘れんなよ。」

嘆息とともに言葉を返すと、ペリグは深々と頭を下げた。

「命でも財産でも、何でも差し出す。だから頼む。息子を救ってくれ!」

ペリグの目に宿った涙を見て、ああ、人の親というヤツは強いもんだな、などと感慨を抱いてしまった。


ペリグや手下の待遇をあんまり悪くしないように頼んでから、牢を後にした。

どうやら、話を聞くのに随分時間とかけてしまったようで、昼食の時間に辛うじて間に合うところだった。

ロイグとコルマクもこれから昼食だというので、せっかくなので同席させて意見を聞くことにする。

「ペリグなんだけどさ。あいつの評判を聞かせてくれないか。」

「評判、ですか。」

戸惑った表情のコルマクの隣で、ロイグはニヤリと笑った。

セタンタ様は、手下がご入り用ですか。」

オレの思惑をズバリと見抜いたロイグに舌を巻きつつ答える。

「アレが海賊として有能なのも、部下の統率にそれなりに優れているのも間違いないだろう。それにどうやら、根っからの悪党でも無さそうだ。なら、殺してしまうのはもったいないと思わないか。」