異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-06-22

「まぁ、メイヴがなにやら高貴な血筋だが、それに見合った才能と人格を持ち合わせていない可哀想な人間だというのは分かった。ま、それはそれとしてだ。」

レーの説明を聞いても、結局のところなぜメイヴが奴隷を欲したのかは分からない。

「『メイヴが1000人の奴隷を欲しがった理由』は何か。あるいは、『ペリグに奴隷を集めさせたかった理由』は何か。オレは、今回の事件を理解するためにはこれを知るのが一番重要だと思うんだ。」

疑わしげな表情のコルマク。皮肉そうな笑みを片頬に浮かべたロイグ。微かに小首を傾げたレー。その表情を見るに、どうやら三人ともオレの主張に納得がいっていないらしい。そんな三人に笑いかけながら話を進める。

「君らは、『メイヴのやることに理由なんか無い』とか思ってるかも知れない。確かにそうかもしれん。」

オレの言葉に、コルマクとロイグは深く肯いた。要するに二人とも、メイヴは理屈の通じない悪女という印象しか抱いていないのだろう。レーはというと、少し気まずそうな顔をしていた。どうやら、妖精の複雑な心境という奴なのだろう。

「ただな。気まぐれにしたってメイヴか、あるいはその取り巻きの誰かかは知らないが、ペリグを使嗾した人間がいることは確かだ。そして、そいつはペリグが遅かれ早かれ私財を使い尽くし、どこかコノートの近く、つまりは影の島内で人攫いに手を染めると踏んでいたんじゃないかと思う。そうでなければ、ワレンディルでかり集めた子供達をコノートへ運び込む算段を手伝ったりはしないはずだ。コノートに行けば関所や衛兵だっているだろう?」

「ええ。向こうにも騎士団がありますので。街道沿いに進めば関所で止められますな。」

ロイグは、ぼそぼそと生えたあごひげを右手で掻きながら、オレの話に頷きを返した。

「つまり最低限、ペリグ一味をコノート領で大手を振って歩けるようにしたり、土地に不慣れなよそ者を手引きする案内人なんかはコノート側が用意したんじゃないかと思うんだ。」

「そう……なりますな。」

コルマクも、眉間にしわを寄せて肯いた。

「どのくらいメイヴやコノート側がこの件に関わっているのかは正直分からない部分もあるが、とにかく全く無関係と言うことはあり得ない。そこはいいよな。」

同意する三人に念を押して、さらに話をリードする。

「となるとだ。メイヴかコノートの人間は、単純に『奴隷を欲しがった』のか、それとも『ワレンディル側で人攫いをやらせたかった』のか、それとも何か他の理由があったのかが重要になってくる。」

「動機が重要なのはどうしてですか。その、どんな理由があったとしても、人攫いの山賊がセタンタ様に捕らえられた、という事実は変わりませんけれど。」

鋭くつっこむレー。視線を合わせると、オレの方に向けて口元だけで笑みを投げてきたところを見ると、俺が話しやすいように相槌を打ってくれているようだ。

「んー、そうだな。」

オレも調子を合わせて説明を進める。

「もし、ただメイヴが我が儘で奴隷を欲しがっただけなら、まぁ気にしなくても良いかもな。ペリグは取引の対象にされただけの話だから。だがもしメイヴが、あるいは他の誰かがもっときちんとした目論見を持ってペリグをこちら側に送り込んだのだとしたらどうだろう。」

「目論見、ですか。」

ロイグの視線が鋭くなる。

「そう。例えば、メイヴがこちらへ攻め込む切っ掛けになるような事件を起こさせるため、とか。あるいはそうだな。掠った子供を人質にしてコノーアさんやスカアハへの民衆の信頼を揺さぶるとか。」

「それは一大事ですな!」

思わせぶりに想像を話してやると、コルマクは大きな声で叫びながら身を乗り出した。

「い、いや。これは仮定だぞ。もしかしたらそういう陰謀があるかもな、という話だ。もしそうならペリグは、子供の病を楯に悪女に嗾された哀れな男ということになるだろう。」

「つまり、セタンタ様としては……」

「そういう繋がりがなかったか、もう一度洗い直して欲しいんだ。ペリグ一味からの聞き取りで、コノートとの繋がりがどれだけ出てくるか、それによってはこの事件、もっと裏があるのかも知れないだろ。」

オレの台詞に、ロイグは肩を竦めた。