異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2008-07-13

「いくら優れた船乗りだからといっても、人攫いに放火までした者を無罪になど出来るわけがありませんわ。」

呆れた表情のフィオナ

一方のホーサはというと、

「優れた技術を持った者を助命するのは悪いことではないわ。」

と理解のある台詞。

どうやら、この二人の倫理観的にはこの事件、判断が随分と分かれる例らしい。

「いやいや。別に無罪放免しようってワケじゃないんだ。」

ひとまず、ホーサの方は味方に回ってくれそうなので、フィオナに反論を試みてみる。

「それなりの償いをな、働いてさせたらいいと思うんだ。例えば、交易船の船長をやらせるとか、軍船の指揮を執らせるとか。そういう仕事が出来る人間はそんなに多くはないはずだ。無為に殺させるよりずっといいと思うんだが。」

「私もそう思う」

オレとホーサの言葉に、フィオナの眉根がぐぐいと角度を引き締めた。

「船長がどれだけ偉いかは分かりませんが、悪漢をそんな理由でいちいち許していたら、不平等ではありませんか。」

言葉自体は丁寧だが、その語気は次第に強くなってきている。その上、ギロリとこちらを一瞥する視線の鋭さが怖い。

「ああ、確かに。それはその通りなんだけどさ。」

ちょっとその眼光にビビリつつ同意すると、オレの声を遮るようにホーサが口を開いた。

「不平等で何が悪いの?」

一瞬、空気が固まる。フィオナホーサを見つめて目を見開いていたが、すぐさま眉間にしわを寄せて反論を始める。

「法の下の平等がなければ、誰も法を守ったりしなくなりますわ。法が正しく平等であるからこそ、皆が法に従って生きることを受け入れるのです。」

「……え、えーと?」

「それは違う。」

ホーサさん?」

「法は道具に過ぎないわ。法が正しいのは、正義を行う力と他人を救おうとする高潔さを兼ね備えた人が世を治めるために法を定める時だけ。平等でも正しくない法律もある。」

オレが口を挟む隙もなく、言葉を投げつけ合う二人。方や激しく言葉を浴びせ、方やそれを少ない言葉で切り返す。

「どーなってんのこの二人。」

「良く分かりませんが、考え方の違いがあるみたいですね。」

オレとレーが顔を見合わせる間にも、舌戦は続く。

「とにかく、あの山賊どもを許しては皆が納得しないぞ!」

「平等以外の方法で納得させればいいでしょう。」

二人の論争は段々ヒートアップして、そろそろ単なる意見の相違では済まない勢いになりつつあった。

「はいはい!二人ともそこまで!」

空気が険悪もいいところになってきたので、手を叩いて場に割り込む。

セタンタホーサの意見に賛成なのか!?」

すると、フィオナは興奮した勢いそのままでこちらを睨み付けてきた。おお、おっかねえなぁもう。

「言葉遣いが素に戻ってるぞ、エマ姫様?」

「……!あ、あらまぁ。いけませんわ、私としたことが。」

内心怯みながらもツッコミを入れると、フィオナは漸く自制心が働いたようだった。

「オレは別に、ホーサの意見に賛成ってワケじゃないよ。」

セタンタ……。」

努めて穏やかなトーンで口を挟むが、今度はホーサから恨みがましい視線が飛んでくる。口を尖らせる様子が可愛いと言えば可愛いが、そんなにムキになることもないだろうに。

「いや、もちろん反対でもないんだがね。はっきり言っちゃうとそこまで考えてないんだよ。」

「「どういう事?」」

「オレは、法の運用とか社会体制がどうとか、そんな高度なことは考えてないの。そういうのはもっと偉い人がする仕事なんでね。」

苦笑しながら肩を竦める。

「オレはね。やっぱり単純にペリグに同情してるだけなんだわ。二人の話を聞いてて良く分かったよ。もちろん、何が何でも庇ってやりたいワケじゃないけど、ただの人攫いとしてアイツを裁くのには反対だよ。アイツは弱みにつけ込まれて嗾されただけの男だ。愚かかも知れないが、本当の意味での悪人じゃないと思うね。」