異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-03-07

「何が『いいところ」なんで?」

「うむ。実は現在、格闘技の助手を募集していまして。丁度いいところに偶然顔を出したカスパルさんにお願いしたいと思いまして。」

ギョッと怯んだカスパルさんの肩を掴んで、体格にものをいわせて引き寄せる。

「いや、今はちょっと別用がありましてね。いやはや残念……」

「まぁまぁ、そう仰らずに。何かこの私に聞きたいことがあるご様子。ほんの少し手伝っていただけたら、何でも快くお答えしますとも。」

引きつり笑いのカスパルさんに、ニヤリ笑いのオレ。

「は、ははは……。」

「はっはっは!」

笑い合うオレ達を、呆れた様子で三人のお嬢さんは呆れ顔で眺めていた。


「それで、こんな格好をさせて何をしようってわけで。」

カスパルさんは、稽古着代わりに着せられた鎧下を見下ろしながら、諦めた様子で肩を竦めた。

ちなみに、鎧下は鎖帷子の下に着る厚手の衣装で、腕は手の甲まで、脚は膝上まで覆っている。生地は麻と毛織りと麦藁を重ね合わせて刺し子にしたもので、刃物は止められないが衝撃の吸収に長けている。金属鎧を着ない時には簡単な鎧としてこれだけで着たり、革鎧と組み合わせて着たりもするそうな。ともあれ、柔道着の代わりとして使うにはまぁまぁの代物である。

「まず最初にオレが覚えてる格闘技ってのが、どういう技なのか見てもらおうと思う。」

今ひとつピンと来ない様子のお嬢様二人に加え、巻き込まれただけのカスパルさんにも、とりあえずどんなもんか分かりやすく理解してもらうのが手っ取り早いであろう。そのためには動きが派手で、利点が明瞭な技がいい。

「そんなわけで、これからジュウドウという技術のうち、『はね腰』という技を見てもらうから。」

オレが熱心にやってた格闘技は空手の方なのだが、悲しいかな空手は剣や槍といったリーチのある武器を前にすると、甚だ優位性に翳りのある技術である。剣の間合いからさらに一歩、そこが空手の間合いになるが、この一歩を踏み込むのは容易なことではない。槍を相手にして剣と楯で踏み込むのでさえ難しいのに、無手で武器のリーチを相手にするのはほとんど自殺行為と言って良い。この辺、姐御による鍛錬と称する暴力により、様々なシチュエーションで幾度となくボコられているオレが言うのだから間違いない。

仮にその一歩を踏み込めたとしても、鎧を着込んだ相手には拳も蹴りも決定打になり得るとは言い難いわけで。

その点、柔道はまだ通用する可能性がある。

基本、相手を投げ飛ばすことに重きを置いた技術なので、距離を詰められさえすれば鎧を着てようがなんだろうがぶん投げることは出来る。胴着を着てるわけでもないし、投げたあと固め技や絞め技には繋がりにくいだろうという予測もあるが、まあ、ぱっと見空手よりは有用性が伝わりやすいだろう。

なおオレの柔道経験はというと、一応高校でお付き合いに初段だけはとった、という程度の腕に過ぎない。キッチリ使えるのは、はね腰、払い腰、大腰、小内刈りぐらいのもんである。

「とりあえず、1回やってみるから。カスパルさんは、オレに右腕で殴りかかってきてくれますか。」

「素手でですか?」

「ええ。専ら素手で相手を投げたり殴ったりする技術ですんで。」

そういいつつ、ゆっくりと手を出してもらう。

「カスパルさんが右で殴りかかってきたところを、その腕を捕らえて」

体格はオレの方が二回りは上なので、カスパルさんの腕を左脇に抱えつつ、身をかがめてその胸元に踏み込む。

「右腕を差し込んで左手を引き、右足で相手の右太ももを跳ね上げる。投げますよ!」

「うわ!」

あまり勢い任せにならないように、タイミングを合わせてコンパクトに腰を跳ねると、カスパルさんの両足が宙を舞って、土の上に落ちた。

「大丈夫ですか?」

「いやはや、驚いた。驚きました。」

目をパチパチと瞬かせているカスパルさん。その向こうでは、フィオナホーサがキョトンとした表情でこちらを見つめていた。