異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-03-08

「右腕で相手の胴体を抱えて、左手を引いて捻る。同時に右膝の横で相手の右足を内側から跳ね上げる。」

さすがに5度目ともなるとカスパルさんも慣れたもので、オレの動きに合わせて綺麗に投げられてくれる。下手に逆らわない方が痛くないと、さっさと学習したようである。

「このとき、腕でぶん投げるわけじゃなくて、右足で足払いするというか、かがめた腰で跳ね上げる感じでやると、スパーンと気持ちよく決まる。」

「ふむふむ。なるほど。」

オレの説明に合わせて、フィオナホーサが互いを相手に踏み込む動作を繰り返している。ちなみに、投げ飛ばすのはNGである。初心者同士で投げさせると怪我するから。

「んじゃ、今度はオレを投げてみてもらいましょうか。カスパルさんから。」

「ええ。要領は大体分かりました。」

最初からオレの右腕を掴んだ状態で、カスパルさんは思い切りよく踏み込んできた。いつもどこか眠たげというか、全体的にやる気の無さそうな雰囲気を出しているカスパルさんであるが、このときばかりは子供のように楽しげな表情である。どこか老成した印象もある人だったが、こういう無邪気な顔も持ってるんだな。

思い切りよく体を入れてきたカスパルさんであるが、残念ながら上体の崩しが足らない。

「おっとっと。」

「ううっ」

オレの両足は宙に跳ね上がらず、そのままカスパルさんに負ぶさるように乗っかってしまう。当然ながら小柄なカスパルさんは倒れ、哀れオレの下敷きである。

「とまぁ、ちゃんと上半身を崩してから脚を払わないと、かえって上に載られちまうわけだ。」

試合ならこのまま絞め技とか固め技に行くわけだが、埃っぽい土の上で寝技とかしたくないので、カスパルさんの両腕を羽交い締めにしつつそのまま引き起こしてやる。

「カスパルさんの場合、踏み込みは思い切ってやってるから、左腕の引きつけをきちんとやればいけると思うよ。」

「ではもう一本お願いします!」


結局、カスパルさんにはね腰と払い腰を教えたあと、ホーサフィオナにもいくつか技を教えた。とはいっても、最初投げられ役をオレがやっていたのだがすぐに二人でやり始めてしまった。オレは重いと不評だった上に、鼻の下を伸ばしているとお叱りを受けてしまったのだ。フィオナの意外に柔らかい腰とか、ホーサの胸元から漂う何とも言えん香りとか。気にするなという方が無理である。精神年齢はともかく、肉体年齢は健全な10代青少年なんである。

……そう考えると、柔道で組んずほぐれつとか元々無理がありましたね。

「ところで、話ってなんだったんですか。」

修練場の端っこにある石のベンチに、オレとカスパルさんの二人で腰掛けている。

ちなみに、お嬢様方二人はというと。どうやら柔道がお気に召したようで、武器を持った状態でも組み付けるか、などと応用まで考え始めている。本当は武器相手だと一本背負い辺りがいいと思うんだけど、あれは中途半端に教えると腕をへし折るからなぁ。

もういい加減に日も傾きつつある中、土まみれになって武術に励む女の子をいい年のオッサン二人で眺めているという按配である。

「例の山賊の頭ですが、助けることにしたとか。」

「ああ、カスパルさんの耳にも入ったんだ、その話。」

「ええ。実はこの話、騎士団の方で噂が出回っているようで。父の方にも話が行きそうな気配だったので、私の方で箝口令を敷いておきました。」

「あー。そいつはすみません。そこまで気が回らなくて。助かりました。」

思わず舌打ちしてしまう。こういう話は無軌道に噂が歩き回ると、思いもよらないしっぺ返しになることがある。もう少し慎重でも良かったな。

「どうやら、本気みたいですな。」

カスパルさんは、オレに意味ありげな笑みを投げつつ話の水を向けた。

「ええまぁ。なんというか……」

ふぅ、と溜め息を吐きながら答える。

「事情を聞いたら同情してしまいました。」